Study Notes / 2026 ・ No.03
Jev覚書
文章を書かないモデルを、どこでどう使うのか
公開
この回で答えること
先に結論だけ言うと、Q1 は「そのとおり、それがこのモデルの形」です
2026年9月、TypeSafe AI が Jev というモデルを公開しました。
文章を書かない、というところが今までと違います。
何が違うのかを押さえたうえで、上の三つに答えます。
文章を書かないモデル
Jev はテキストを生成しません。こちらが先に決めた選択肢・スコア・はい/いいえのどれかを、確率つきで返してくるだけのモデルです。開発元は「System One(直感)のモデル」と呼んでいます。
作ったのは元 OpenAI の研究者 Diogo Almeida 氏が創業した TypeSafe AI。InstructGPT の論文(第1回・三章の RLHF の出どころ)の共著者です。同氏は Jev を「賢い if 文だと思ってほしい」と説明しています。
同じ入力でも、返ってくるものの形がまったく違う
LLM に問い合わせの分類をさせると、返ってくるのは文章です。JSON で返せと頼んでも、長さも形もモデル側が決める以上、こちらは毎回それを検証しなければなりません。Jev にはそもそも文字列を出す機能がありません。返り値は、こちらが定義した型に必ず収まります。
「幻覚ゼロ」と紹介されることがありますが、正確には型が外れないことの保証です。選択肢にない答えは返らない、という意味であって、選ばれた答えが正しいとは限りません。0% という数字も実測値ではありません。
なぜ速くて安いのか
LLM は一語ずつ順番に書きます(第1回・一章)。100語書くなら100回まわす。Jev は文章を書かないので、その繰り返しがありません。出力が短いのではなく、出力の仕組みそのものが違うわけです。
| 項目 | 公表されている値 |
|---|---|
| 応答時間 | 70〜500ms(端から端まで) |
| 料金 | 入力 100万トークンあたり $0.042。出力は無料 |
| 文脈長 | 32,000 トークン |
| 入力 | テキストのみ(画像・音声・動画は非対応) |
| 学習 | 合成データのみ。RLCD(較正された判断のための強化学習) |
出力トークンが無料なのは、請求できるほどの量を出さないからです。返ってくるのは確率がいくつかと確信度だけ。課金の単位が「100万」ではなく「10億」で語られるのも同じ理由です。
「193.6倍速く、444.6倍安い」という数字も出ていますが、これは TypeSafe 自身の評価によるもので、比較対象も同社が選んだものです。速さと安さの桁は信じてよさそうですが、自分のデータで測り直すのが前提だと考えてください。
state と questions ── Q1 の答え
はい。state と選択肢を定義しないと動きません。ただしこれは制約というより、このモデルの使い方そのものです。「何を見せるか」と「何を訊くか」を書くことが、Jev を使うということです。
呼び出しは二つだけ
API に渡すのは state(見てほしいもの)と questions(訊きたいこと)の二つです。
state は「モデルに見てほしいもの」であればなんでも構いません。文字列でも、オブジェクトでも、配列でもよく、JSON のまま渡せます。上の例では件名・本文・プランを入れています。
質問は三種類
| 型 | 返るもの | 制限 |
|---|---|---|
| Noul | はい/いいえの確率(0〜1) | — |
| Choice | 選ばれた選択肢+各選択肢の確率+確信度 | 選択肢は最大255 |
| Score | 段階の重みつき平均+各段階の確率+確信度 | 段階は2〜10 |
どの型にも instructions(何を訊いているか)を書きます。criteria は任意で、選択肢や段階の意味を説明する欄です。SDK 経由だと名前が変わることがあり、たとえば Vercel の AI SDK では Noul が boolean になっています。
返ってくるもの
ここが LLM といちばん違うところです。選ばれなかった選択肢の確率まで返ってくる。そして確信度が別についてくる。つまり「billing だと思うが自信はない」という状態を、こちら側のコードが読み取れます。
「賢い if 文」というのは、この分岐のこと
確信度が高ければそのまま自動で処理し、低ければ LLM か人間にまわす。しきい値を決めるのは自分のコードで、モデルはその材料を返すだけです。この役割分担が Jev の設計思想そのものだと思います。
Web テストに使う ── Q2 の答え
まず大前提として、Jev はブラウザを操作しません。動かすのは Playwright などのコードで、Jev は「いまの画面を見て、次にどうするか・合格か」を判定するだけです。
操作するのはコード、判断するのが Jev。この一周をくり返す
state に入れるもの
ここが質問の核心だと思います。HTML をそのまま渡してはいけません。文脈長は32,000トークンで、実際のページの DOM はすぐにこれを超えます。入れるのは「要約した画面」です。
- goal・expected ── 何を確かめたいのか。これがないと合否の判定ができません
- step・history ── いま何手目で、ここまで何をしたか。同じ操作のループを検知できます
- page ── URL、タイトル、見えているテキスト、警告やトーストの文言
- actions ── 押せる要素の一覧。これがそのまま選択肢になります
DOM ではなくアクセシビリティツリーや表示テキストを入れるのがコツです。人間がその画面を電話で説明するとしたら何を言うか、と考えると、だいたい過不足がなくなります。
questions の組み方
| 質問 | 型 | 用途 |
|---|---|---|
| nextAction | Choice | actions の中からどれを押すか |
| expectedMet | Noul | この手順の期待どおりになっているか |
| stuck | Noul | 同じところを回っていないか(打ち切りの判断) |
| severity | Score | ずれの深刻度(2〜10段階で定義する) |
nextAction の選択肢は最大255なので、押せる要素が255を超える画面では、先にコード側で絞り込む必要があります。
コードで書ける検証は、コードのままにしておくこと。「ボタンが存在するか」「ステータスコードが200か」に Jev は要りません。Jev が効くのは「このエラー文は利用者に意味が通じるか」「この画面は決済画面に見えるか」といった、書き下すのが面倒な判断のほうです。
スクリーンショットは渡せません(テキストのみ)。見た目そのものを判定させたい場合は、先に画像を読めるモデルに説明させ、その文章を state に入れる、という二段構えになります。
株の売買に使えるのか ── Q3 の答え
技術的には可能で、公開直後から実例も出ています。ただしJev が担っているのは全体のごく一部で、勝ち負けを決めているのはたいてい自分のコードのほうです。
公開から数日で、板情報を約300msごとに判断させる取引ボット、複数の銘柄ごとに独立した建玉を持つ構成、ペーパートレードでの検証などが出ています。香港株の方向予測や、銀行の問い合わせ分類(正答率92.4%)といった、もう少し落ち着いた使い方も報告されています。
実例に共通する形。Jev の前後は、どれも自分で書いたコード
実例に共通しているのは、400トークン程度に圧縮した state を渡し、返ってきた確率をコード側のポリシーで扱うという形です。Jev は相場を見にいきません。何を特徴量にするか、どう圧縮するかは、すべてこちらの仕事です。
気をつけるところ
- 較正は「当たる」ことではありません ── 確率が較正されているとは、学習した分布の上で 0.7 と言ったら約7割当たる、という意味です。相場は非定常で、しかも相手がいます。学習時の分布の外側です
- 70〜500ms は AI としては速いだけ ── 時間優先の戦略には遅すぎます
- テキストのみ・32,000トークン ── チャート画像は渡せず、履歴も入れ放題ではありません
- 確率的です ── 同じ入力で必ず同じ答えが返るわけではありません。損失限度や建玉上限のような絶対に守るべき規則は、モデルではなくコードに置く
- ベンチマークは自社評価 ── 速さと安さの主張は、自分の環境で測り直してから判断するのが安全です
私たちは投資助言を行う立場にありません。ここに書いたのは仕組みの話で、売買の判断についてのものではありません。実例の多くが既定でドライラン・ペーパートレードから始まる設計になっているのは、そういうことだと思います。
使い分けの目安
Jev は LLM の置き換えではありません。第2回・一章で書いた「何を当てさせたか」の違いが、そのまま守備範囲の違いになっています。
| やり方 | 教師データ | 速度 | 同じ答え | 自由な文章 |
|---|---|---|---|---|
| ルール | 不要 | 速い | 必ず同じ | × |
| 従来の機械学習 | 必要 | 速い | ほぼ同じ | × |
| Jev | 不要 | 速い | そのつど揺れる | × |
| LLM | 不要 | 遅い | そのつど揺れる | ○ |
もうひとつ有望なのが、LLM の見張り役としての使い方です。エージェントが道具を呼ぶ直前に、その呼び出しが危険でないかを Jev に判定させて止める。第1回・六章で書いた「信頼性の積算」への現実的な答えのひとつになりそうです。
まず試すなら
すでに LLM で分類だけさせている箇所が、いちばん置き換えやすいはずです。入力も期待する出力も手元にあるので、同じデータで両方を流して突き合わせることができます。速さと安さの主張を、自分の土俵で検算するところから始めるのがよいと思います。
結 — 一枚まとめ
- Jev は文章を書かない。事前に決めた選択肢・スコア・はい/いいえを確率つきで返す。
- だから速くて安い(70〜500ms、入力100万トークンで $0.042、出力は無料)。
- Q1:そのとおり、state と選択肢を書くことが使い方そのもの。
- Q2:DOM ではなく要約した画面。目的・手順・見えているテキスト・押せる要素。押せる要素がそのまま選択肢になる。
- Q3:技術的には可能。ただし特徴量もリスク管理も自分のコード側で、較正は「当たる」ことの保証ではない。
- 「幻覚ゼロ」は型が外れないという意味。答えが正しいことの保証ではない。
- ルール/従来の機械学習/Jev/LLM は競合しない。LLM の見張り役としての使い道も大きい。
参考
- TypeSafe AI — API reference(state / questions の仕様)
- TechCrunch — A new kind of AI model from a ChatGPT inventor
- ITmedia AI+ — 「Jev」とは “文章を書かないAI”がなぜ話題に?
- MarkTechPost — TypeSafe AI Releases Jev(ベンチマークへの注記)
- Vercel — How to classify, route, and score with Jev and AI SDK
- Cloudflare AI docs — Jev(文脈長)
Jev覚書 — 全六章 / 2026.09