Science Notes / 2026 ・ No.01

遺伝子ってなに?

細胞でも原子でもない、生命の「情報」のしくみ

公開

暗い背景に、青く光るDNAの二重らせんがいくつも浮かんでいるCG
DNAの二重らせんのイメージ。この細い鎖に並ぶ「文字」が、遺伝子の正体です写真:PublicDomainPictures / Wikimedia Commons(CC0、トリミング・縮小)

「遺伝子」という言葉は毎日のように耳にするのに、その姿を思い浮かべるのは意外と難しいものです。
それは細胞のような生き物の単位なのか、原子のような小さな粒なのか。
なぜ、髪の色から病気のなりやすさ、さらには老いや死にまで関係すると言われるのか。
体の中をズームしながら、図と写真で順番にひもといていきます。

一

答えを先に ── 遺伝子は「情報」

結論から言うと、遺伝子は細胞のような「生き物の単位」でも、原子のような「物質の粒」でもありません。いちばん近いのは「情報」、つまり文章です。

私たちの細胞の中には、DNAという、とても細長い分子が入っています。DNAには、A・T・G・Cという4種類の「文字」がずらりと並んでいて、その並び順が情報になっています。遺伝子とは、この長い文字列のうち、「体をつくる部品の作り方」が書かれたひとまとまりの区間のことです。

たとえるなら

DNAは、とても分厚い料理の本。遺伝子は、その中の1つのレシピです。本そのものは紙とインク(=原子)でできていますが、大事なのは紙ではなく、書かれている文章の中身。遺伝子も同じで、物としてはDNAという分子の一部ですが、その本質は「何が書かれているか」にあります。

二

体から原子まで、ズームしてみる

遺伝子が「どこに、どんな形で」あるのかを、人の体から順に拡大して見てみましょう。

遺伝子のありかをズームで見る

A T C O N H P N C H O 1. 人の体 約37兆個の細胞が 集まってできている 2. 細胞 多くは0.1mmより小さい 真ん中に核がある 3. 核 細胞の中の小さな袋 DNAがしまわれている 4. 染色体 DNAを束ねたもの 人は46本(23対) 5. DNA 2本の鎖のらせん 1細胞分で長さ約2m 6. 塩基と原子 A・T・G・Cの4種類の「文字」 炭素・酸素・窒素などの原子

細胞の数は2013年の研究による推定値(約37兆個)。DNAの長さは、1つの細胞に入っている約60億の文字(塩基対)をまっすぐ伸ばした場合の目安です

人の体は、約37兆個の細胞でできています。そのほとんどの細胞の真ん中に核という小さな袋があり、DNAはその中にしまわれています。

黒い背景に、青い丸い核と、緑の繊維、赤い粒々が広がる細胞が3つほど写った蛍光顕微鏡写真
ウシの血管の細胞を蛍光の色素で染めた写真。青く光る丸が核で、DNAはこの中にしまわれています(緑は細胞の骨組み、赤はミトコンドリア)写真:Erin Rod / Wikimedia Commons(CC BY 4.0、トリミング・縮小)

驚くのはその長さです。1つの細胞に入っているDNAをまっすぐ伸ばすと、約2メートルにもなります。それが、直径が100分の1ミリにも満たない核の中に収まっているのです。秘密は「糸巻き」。DNAはヒストンというタンパク質に巻きつき、さらにそれが何重にも折りたたまれて、コンパクトに収納されています。

白い背景に、細い糸の上に小さな点が等間隔に並んだものが、何本もうねうねと広がる電子顕微鏡写真
ニワトリの赤血球から取り出したDNAの電子顕微鏡写真。糸の上の点々は、DNAが巻きついた「ヒストン」というタンパク質の糸巻きです写真:Chris Woodcock / Wikimedia Commons(Public domain、トリミング・縮小)

さらに拡大すると、DNAは2本の鎖がらせん状によじれた二重らせん。その鎖をつくっているのは、炭素・水素・酸素・窒素・リンといった、ごくありふれた原子です。つまり、遺伝子を「物」として見れば、原子が規則正しくつながった分子の一部。でも、その価値は原子そのものではなく、A・T・G・Cの並び順にあります。

黒い背景に、赤・白・青・オレンジ・灰色の球がぎっしり集まって、ねじれた棒のような形をつくっているCG
DNAを原子の球で表した模型。赤は酸素、青は窒素、白は水素、オレンジはリン、灰色は炭素。DNAもまた、原子が集まってできた分子です写真:Ude / Wikimedia Commons(Public domain、トリミング・縮小)
三

細胞・原子・遺伝子を比べる

「遺伝子は細胞みたいなもの?原子みたいなもの?」という疑問に、表で答えてみます。

細胞原子遺伝子
何の単位?生命の単位(生きている最小のまとまり)物質の単位遺伝情報の単位
正体膜で包まれた小さな袋原子核と電子DNAの文字列の、ある区間
大きさ多くは0.1mm以下約0.1ナノメートル数百文字から200万文字以上まで
人の体では約37兆個数えきれないタンパク質の設計図は約2万個
それだけで生きている?はいいいえいいえ(読み取られて初めて働く)

では、DNAの文字列の上で、遺伝子はどんなふうに並んでいるのでしょうか。ごく一部を拡大すると、こんなイメージです。

DNAの文字列と、遺伝子という「区間」(イメージ)

T A A T T A A T A T A T G C C G C G A T T A G C G C C G T A T A C G A T G C G C C G T A G C G C T A A T A T G C T A T A A T C G C G スイッチ いつ・どれだけ使うか 遺伝子 1つのタンパク質のレシピ。3文字で1単語 AはT、GはCと必ずペアになる。だから片方の鎖から、もう片方を正確にコピーできる ヒトでは、この文字が約30億対、23対の染色体に分かれて並んでいる A アデニン T チミン G グアニン C シトシン

本物の遺伝子は、数百から数百万文字の長さがあります。図は短く縮めたイメージです

本にたとえると、全体の関係はこうなります。

  • ゲノム ── 1人分の全情報。約30億文字の大全集
  • 染色体 ── その全集の「巻」。人は23巻を、父と母から1セットずつ、計46冊持っている
  • 遺伝子 ── 1つのレシピ。タンパク質の設計図になっているものは約2万個
  • コドン ── 3文字でできた「単語」。1つの単語が、1つのアミノ酸を表す
  • 塩基 ── A・T・G・Cの4種類の「文字」

実は、タンパク質の設計図として読まれる部分は、ゲノム全体の約1.5%しかありません。残りには、遺伝子のスイッチ(いつ、どれだけ使うかを決める部分)や、RNAという別の分子の設計図、そして役割がまだよくわかっていない部分が含まれています。

白い背景に、黒い縞模様のついた棒状の染色体が、大きい順に2本ずつ並べられている
ヒト(男性)の染色体を大きさの順に並べたもの。1番から22番までが2本ずつと、XとYの合わせて46本です写真:National Human Genome Research Institute / Wikimedia Commons(Public domain、トリミング・縮小)
四

遺伝子はどうやって見つかったか

遺伝子が「情報」だというのは、その発見の歴史を見るとよくわかります。遺伝子は、顕微鏡で見つかるより先に、「目に見えないけれど、確かにあるはずの単位」として考え出されたのです。

年できごと
1865メンデルがエンドウ豆の交配実験から、親の特徴は粒のような「要素」として子に伝わると発表
1909ヨハンセンが、その要素を「遺伝子(gene)」と名づける。正体はまだ不明
1944エイブリーらが、遺伝情報を運ぶ物質はタンパク質ではなくDNAだと示す
1953ワトソンとクリックが、DNAが二重らせんであることを発表。文字がペアになる仕組みから、コピーのしかたも見えてきた
2003ヒトゲノム計画で、人のDNAの文字の並びがほぼすべて読み取られる

メンデルの時代には、遺伝子は「計算上の存在」でした。それが約90年かけて、DNAという分子の上に書かれた文字の並びだとわかったのです。

展示室に立つ、金属の棒と板を組み合わせた背の高いらせん状の模型
1953年にワトソンとクリックが組み立てたDNAの二重らせん模型のレプリカ(ベルリン医学史博物館)写真:Flocci Nivis / Wikimedia Commons(CC BY 4.0、トリミング・縮小)
五

設計図からタンパク質へ

遺伝子は、書かれているだけでは何もしません。読み取られて、タンパク質がつくられて、初めて働きます。その流れは、どの生き物でもほぼ共通です。

遺伝子が働くまでの2ステップ(転写と翻訳)

核の中 核の外(細胞質) DNA A T G G G C T T T mRNA A U G G G C U U U ① 転写 必要な部分だけをRNAに写す ② 翻訳 3文字ずつ読んでアミノ酸をつなぐ M メチオニン G グリシン F フェニルアラニン タンパク質 鎖が折りたたまれて 形と働きが決まる コドン 3文字=1つのアミノ酸 20種類のアミノ酸を指定

ATG(mRNAではAUG)は、多くの遺伝子で「ここから読み始める」という合図にもなっています

  1. 転写 ── 核の中で、必要な遺伝子の部分だけを、mRNAというコピーに写し取ります。大事な原本(DNA)は核から出さず、コピーだけを持ち出すわけです
  2. 翻訳 ── 核の外で、リボソームという「工場」がmRNAを3文字ずつ読み、対応するアミノ酸を1つずつつないでいきます
  3. 折りたたみ ── つながったアミノ酸の鎖が、決まった形に折りたたまれて、タンパク質が完成します

4種類の文字を3つ並べると、組み合わせは64通り。これで20種類のアミノ酸と「読み終わり」の合図を指定しています。こうしてできるタンパク質こそが、体の中の実際の働き手です。

タンパク質の仕事例
化学反応を進める(酵素)食べ物を分解する消化酵素、お酒を分解する酵素
体の材料になる皮膚や骨のコラーゲン、髪や爪のケラチン、筋肉の繊維
ものを運ぶ酸素を運ぶ赤血球のヘモグロビン
信号を伝える血糖値を下げるホルモンのインスリン
体を守るウイルスや細菌にくっつく抗体
六

なぜ遺伝子はこんなに影響力があるのか

文字の並びにすぎない遺伝子が、なぜ生き物にここまで大きな影響を持つのでしょうか。理由は大きく4つあります。

1. すべての細胞が、同じ全集を持っている

私たちは、たった1つの受精卵から始まります。受精卵が分裂するたびに、DNAは2本の鎖をほどいて、それぞれを型にして正確にコピーされます(AにはT、GにはCがつくので、片方があればもう片方を復元できます)。こうして、37兆個の細胞のほとんどが、同じ全集を1セットずつ持つことになります。

赤い背景の中で、緑の放射状の糸の真ん中に、青い棒状のものが集まっている蛍光顕微鏡写真
分裂中のイモリの肺の細胞。青いのが染色体、緑の糸(紡錘体)が、コピーした染色体を2つの細胞に分けていきます写真:OpenStax / Wikimedia Commons(CC BY 4.0、トリミング・縮小)

2. 体をつくり、動かす「道具」のレシピだから

前の章で見たように、体の材料も、化学反応も、信号も、守りも、実際に担っているのはタンパク質です。そのすべての作り方が遺伝子に書かれているので、遺伝子が変われば、体のあらゆる場所に影響が及びえます。

3. スイッチで、使うページを切り替えている

神経の細胞も、筋肉の細胞も、持っている全集は同じです。違うのはどのページを開いているか。細胞は、遺伝子のスイッチを入れたり切ったりして、必要な遺伝子だけを使っています。だから、同じ設計図から、まったく違う形と働きの細胞が生まれるのです。

同じ全集、違うページ(イメージ)

共通 エネルギー 筋肉の 繊維 信号を 伝える部品 解毒の 酵素 ケラチン (皮膚・毛) 筋肉の細胞 縮んで体を動かす 神経の細胞 電気の信号を伝える 肝臓の細胞 毒を分解する 皮膚の細胞 体の表面を守る 働いている遺伝子 眠っている遺伝子(持ってはいる)

実際には、1つの細胞で何千もの遺伝子が、場面に応じて細かく調節されています

4. 親から子へ、受け継がれるから

人は、ほとんどの遺伝子を2つずつ持っていて、1つは父から、もう1つは母から受け取ります。文字の並びは人どうしで99%以上が同じですが、残りのわずかな違いが、顔立ちや体質の個性になります。ときには、たった1文字の違いでタンパク質の形が変わり、病気の原因になることもあります(たとえば鎌状赤血球症)。

七

生老病死は、遺伝子が決めているのか

ここがいちばん気になるところでしょう。答えは、「遺伝子が決めていること」と「遺伝子だけでは決まらないこと」がある、です。

生 ── 1つの細胞から体をつくるプログラム

受精卵がどんな順番で分裂し、どこが頭になり、どこが手になるか。この体づくりの手順は、遺伝子に書かれたプログラムにそって進みます。おもしろいのは、そのプログラムに「細胞が自ら死ぬ」手順まで含まれていること。おなかの中の赤ちゃんの手は、はじめは指の間がつながっていて、その間の細胞が決められたとおりに消えることで、5本の指が分かれます。この「プログラム細胞死」のしくみを解き明かした研究には、2002年のノーベル生理学・医学賞が贈られました。大人の体でも、毎日1兆個を超える細胞がこうして入れ替わっています。

老 ── 回数券と、少しずつたまる傷

染色体の両端にはテロメアという「キャップ」があり、細胞が分裂するたびに少しずつ短くなります。いわば分裂の回数券で、胎児の細胞でも約50回分裂すると、それ以上は増えない「老化細胞」になります。また、DNAは毎日のように紫外線や放射線、活性酸素などで傷つき、修復しきれなかった傷が年とともに積み重なっていきます。

では、寿命そのものは遺伝で決まっているのでしょうか。4億人を超える家系図のデータを分析した2018年の研究では、寿命の違いのうち遺伝で説明できるのは1割未満(7%以下)と推定されました。長生きの家系に見えても、その多くは、似た暮らし方や環境を共有していることによるのです。

病 ── ほぼ決まる病気と、「なりやすさ」が変わる病気

病気と遺伝子の関係は、大きく分けて2種類です。

  • 1つの遺伝子の変化で、ほぼ決まる病気 ── たとえばハンチントン病は、HTTという遺伝子の中の「CAG」という3文字の繰り返しが長くなりすぎることで起こります。40回以上ではほぼ確実に発症し、多くは30〜40代で症状が出ます。親から変化した遺伝子を1つ受け継ぐだけで発症するタイプです
  • たくさんの遺伝子と、環境がからみあう病気 ── 2型糖尿病や高血圧など、身近な病気の多くはこちら。小さな影響を持つ遺伝子の違いが何百と重なって「なりやすさ」を変え、そこに食事や運動、睡眠などが加わって決まります

がんも遺伝子の病気ですが、多くは親から受け継いだものではありません。生きているうちに体の細胞のDNAに傷がたまり、細胞の増殖のブレーキが壊れることで起こります。こうした体の細胞の変化は、子どもには遺伝しません。

死 ── 細胞の死はプログラム、人の寿命は台本ではない

細胞レベルでは、死はたしかに遺伝子のプログラムの一部です。けれど、人が何歳で亡くなるかを決める「死の遺伝子」があるわけではありません。老化には、テロメア、DNAの傷、体の修復力など、多くの遺伝子と環境、そして偶然がかかわっています。

遺伝子の影響が大きいもの、環境の影響が大きいもの

遺伝子の影響が大きい 環境・生き方の影響が大きい 単一遺伝子の病気 ハンチントン病など 血液型もここ 身長 差の約8割は 遺伝の違いで説明 2型糖尿病・高血圧 多くの遺伝子 +食事・運動 がん 体の細胞にたまる 遺伝子の傷 寿命 遺伝で説明できるのは 1割未満 けが・多くの感染症 ほとんどが 環境しだい 位置は目安。どれも遺伝子と環境の両方がかかわる

身長は「差のおよそ8割が遺伝の違いで説明できる」という推定(米国国立医学図書館 MedlinePlus)、寿命は2018年の大規模研究の推定です

NOTE

この記事は、遺伝子のしくみを知るための読みものです。病気の遺伝や遺伝子検査について心配なことがあるときは、医師や遺伝カウンセラーに相談してください。

結 — 一枚まとめ

  1. 遺伝子は細胞でも原子でもなく、情報。物としては、DNAという分子に並ぶA・T・G・Cの文字列の一区間。
  2. DNAは核の中で糸巻きのように折りたたまれ、46本の染色体に分かれている。1細胞分を伸ばすと約2m。
  3. 遺伝子は転写と翻訳で読み取られ、体の働き手であるタンパク質になる。
  4. 影響力の理由は、全細胞が同じ全集を持ち、スイッチで使い分け、親から子へ受け継がれるから。
  5. 生老病死のうち、体づくりや一部の病気は遺伝子が強く決めるが、寿命の大部分や多くの病気は環境と生き方しだい。遺伝子は運命の台本というより、演奏しだいで響き方が変わる楽譜。

参考

数値は、記事を書いた2026年10月時点で公開されている資料による推定値です。遺伝子の数などは、研究の進み方や数え方によって変わります。写真は Wikimedia Commons でパブリックドメインまたは再利用が認められているもので、撮影者とライセンスは各写真の下に記しました。図は筆者が作成しました。

科学ノート No.1 — 遺伝子ってなに? / 2026.10

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