Food Notes / 2026 ・ No.01

日本のラーメン、北から南へ

歴史をたどり、ご当地ラーメン15杯を地図でめぐる

公開

白い丼に澄んだ茶色の醤油スープ。縮れ麺の上に、チャーシュー、メンマ、なると、ねぎ
澄んだ醤油スープに縮れ麺、チャーシュー、メンマ、なると。日本のラーメンの原風景のような一杯です写真:Quercus acuta / Wikimedia Commons(CC BY-SA 4.0、トリミング・縮小)

湯気の向こうに、その土地の暮らしが見える。ラーメンは、そんな食べものです。
中国から伝わった一杯の麺が、どうやって日本じゅうで愛される味になったのか。まずはその歴史をたどり、
北は北海道の旭川から、南は鹿児島まで、ご当地ラーメン15杯を日本地図の上でめぐります。
読み終わるころには、きっと次の旅先で「あの一杯」を食べたくなっているはずです。

一

この記事の楽しみ方

前半は歴史、後半はご当地ラーメンの食べ歩きです。歴史の章では、中国の麺がどう伝わり、「支那そば」「中華そば」と呼ばれながら日本の味に変わっていったのかを、年表と一緒にたどります。

後半は、日本地図にご当地ラーメン15杯の位置を置き、北から順に紹介します。地図の番号をクリック(タップ)すると、その一杯の説明へ飛べます。地図の色はスープの系統(醤油・豚骨醤油・味噌・塩・豚骨)です。

NOTE

ご当地ラーメンの特徴は、その土地で多いスタイルの「目安」です。同じ町でも店ごとに味はさまざまで、それこそがラーメンの楽しさです。写真は Wikimedia Commons で再利用が認められているものを使い、撮影者とライセンスを各写真の下に記しました。

二

ラーメンはどこから来たのか

ラーメンのふるさとは中国です。日本で中国の麺が食べられた記録は古く、1488年、京都の禅寺の僧の日記に、かん水を使った中国の麺「経帯麺(けいたいめん)」を客にふるまったという記述があります。江戸時代には水戸黄門こと徳川光圀が中国風の麺を食べたという話も伝わりますが、どんな麺だったのかはわかっていません。

本当の始まりは、幕末の開港です。横浜・長崎・函館・神戸の港が開くと、外国人居留地に中国の人たちが暮らす町(南京町)ができ、中国の料理が持ち込まれました。1884年には函館の新聞に「南京そば」の広告が載っています。これが、日本でこの種の麺の名前が確認できるいちばん古い記録です。

青い額に「中華街」と書かれた、色あざやかな大きな門。その先にまっすぐな通りが続く
横浜中華街の門。開港後に中国の人たちが暮らした「南京町」は、日本のラーメンのふるさとの一つです写真:Syced / Wikimedia Commons(CC0、トリミング・縮小)

1899年に居留地が廃止されると、中国の料理人たちが日本の人にも料理を売り始めます。こうして、中国の麺は少しずつ日本の街の味になっていきました。

三

日本の味になるまで

年表で見る日本のラーメン

1488 京都の禅寺の日記に、中国の麺「経帯麺」の記録 1859〜 開港。横浜などに中国の人たちの町ができる 1884 函館の新聞に「南京そば」の広告 1910 浅草に「来々軒」。醤油味の東京ラーメンの原型 1922 札幌の「竹家食堂」で「ラーメン」の名(諸説) 1923 関東大震災。職人が各地へ散り、ご当地の種に 1937 久留米の屋台「南京千両」。豚骨ラーメンの始まり 1947 久留米「三九」で白濁スープ。戦後は屋台が全国に 1950年代 札幌で味噌ラーメンが生まれる 1958 チキンラーメン発売。「ラーメン」の名が全国へ 1971 カップヌードル発売 1980年代 喜多方がラーメンで町おこし 1994 新横浜ラーメン博物館。ご当地ラーメンが全国区に 2015 「蔦」がラーメン店として初のミシュラン一つ星 年は資料によって諸説あります

農林水産省「aff」、新横浜ラーメン博物館への取材記事などをもとに作成

1910年、浅草「来々軒」

大きな転機は1910年。東京・浅草に開いた「来々軒」が、醤油味のスープに麺、チャーシュー、メンマ、ねぎという、いまの東京ラーメンの原型をつくったとされています。当時の名前は「支那そば」。のちに「中華そば」と呼ばれるようになります。

「ラーメン」という名前と、震災

1922年には札幌の「竹家食堂」で「ラーメン」という呼び名が生まれたとされます(由来には諸説あります)。翌1923年の関東大震災で東京の店が被災すると、職を失った料理人たちが全国に散らばり、各地でラーメンを広めました。これが、のちのご当地ラーメンの種になったといわれます。

九州の豚骨、戦後の屋台

九州では1937年、福岡県久留米市の屋台「南京千両」で豚骨ラーメンが生まれ、1947年には同じ久留米の屋台「三九」で、白く濁った豚骨スープが登場します。戦後は焼け跡のヤミ市や屋台でラーメンが大人気となり、やがて専門店が増えていきました。札幌で味噌ラーメンが生まれたのも1950年代です。

インスタントラーメン、そして「ご当地」の時代へ

1958年、日清食品の「チキンラーメン」が発売され、「ラーメン」という呼び方が全国に広まりました。1971年にはカップヌードルが登場します。1980年代になると、福島県の喜多方がラーメンで町おこしを始め、1994年に新横浜ラーメン博物館が開館。旭川、和歌山、徳島など、各地のラーメンが次々と全国に知られるようになりました。そして2015年、東京・巣鴨の「蔦(つた)」が、ラーメン店として世界で初めてミシュランガイドの一つ星を獲得します。屋台から生まれた一杯は、とうとう世界が認める料理になったのです。

四

一杯を分解してみる

ご当地ラーメンの違いを楽しむ前に、一杯の中身をのぞいてみましょう。ラーメンは、大きく分けて五つの要素でできています。

ラーメン一杯の構成

具 チャーシュー・メンマ・ねぎ・海苔など 香味油 ラード・鶏油・マー油。香りとコク スープ(だし) 豚骨・鶏ガラ・煮干し・昆布など 麺 太さ・縮れ・水分の量で個性が出る タレ 醤油・味噌・塩。味の方向を決める

丼の底にタレを入れ、熱いスープを注いで合わせるのが基本の作り方です

「醤油ラーメン」「豚骨ラーメン」という呼び方は、実は基準が混ざっています。醤油・味噌・塩はタレの種類、豚骨はスープのだしの種類です。だから「豚骨醤油」のように、二つを組み合わせた呼び名もあります。

系統味のイメージ代表的なご当地
醤油香ばしく、すっきり。いちばん古くからのスタイル東京、旭川、喜多方、白河、尾道、富山
味噌濃厚で体が温まる。炒めた野菜と好相性札幌
塩澄んだスープで、だしの味がまっすぐ届く函館
豚骨豚の骨を強火で炊いた、白く濁ったクリーミーなスープ博多、久留米、熊本、鹿児島
豚骨醤油豚骨のコクに醤油の香り。ご飯がすすむ横浜家系、和歌山、徳島
五

ご当地ラーメン地図

ここからは、いよいよ食べ歩きです。北海道から九州まで、15杯の位置を地図にまとめました。よく「日本三大ラーメン」と呼ばれるのは、札幌(味噌)・喜多方(醤油)・博多(豚骨)の三つです。

番号ラーメンスープ・タレ麺ここに注目
1旭川(北海道)醤油。豚骨・鶏ガラなどのスープにラード中細の縮れ麺脂の層で冷めにくい
2札幌(北海道)味噌中太の縮れ麺炒めた野菜、コーンやバター
3函館(北海道)塩。澄んだスープまっすぐな麺透き通った見た目
4喜多方(福島)醤油。豚骨と煮干し平打ちの太い縮れ麺朝ラー、チャーシューたっぷりの肉そば
5白河(福島)醤油。鶏ガラ・豚骨・煮干し手打ちの平打ち縮れ麺縁の赤いチャーシュー
6東京醤油。鶏ガラと魚介のだし細めの縮れ麺なると・メンマの「中華そば」
7横浜家系(神奈川)豚骨醤油に鶏油コシの強い太麺硬さ・濃さ・油の「お好み」とライス
8富山ブラック真っ黒な濃い醤油店によりさまざま粗切りのねぎ、しょっぱいメンマ
9和歌山豚骨醤油細めのまっすぐな麺卓上の早寿司とゆで卵
10徳島豚骨醤油の「茶系」中細のまっすぐな麺甘辛い豚バラと生卵、ご飯
11尾道(広島)醤油。鶏ガラと瀬戸内の小魚平打ちの中細麺背脂のミンチ
12博多(福岡)白く濁った豚骨極細のまっすぐな麺麺の硬さと替え玉
13久留米(福岡)豚骨。濃厚な店が多いやや太めの麺豚骨ラーメンのルーツ
14熊本豚骨に鶏ガラ中太麺マー油と焦がしにんにく
15鹿児島豚骨に鶏ガラ中太のまっすぐな麺黒豚チャーシュー、漬物
六

北海道 ── 旭川・札幌・函館

冬はマイナス20度を下回る日もある北海道。寒さに負けない工夫から、三つの町がそれぞれ個性的な一杯を生み出しました。旭川・札幌・函館は「北海道三大ラーメン」とも呼ばれます。

1. 旭川ラーメン ── 熱々を守る、ラードのふた

旭川の一杯は醤油味。豚骨と鶏ガラや野菜のスープを合わせ、表面をラードの層が覆います。冬には氷点下30度近くまで冷え込む町で、スープが最後まで冷めないようにした工夫です。養豚が盛んな土地柄も、豚骨とラードを使う理由の一つ。スープがよくからむ中細の縮れ麺と一緒に、ふうふう言いながらすすりたい一杯です。

白い丼に醤油色のスープ。大きなチャーシューが数枚と、たっぷりのねぎ、メンマ
旭川の老舗の醤油ラーメン。スープの表面の脂がふたの役目をして、最後まで熱々です写真:Famicon / Wikimedia Commons(CC BY-SA 4.0、トリミング・縮小)

2. 札幌ラーメン ── 味噌ラーメンはここから

札幌ラーメンのルーツは、戦後の二条市場の屋台にあるといわれます。1950年代、老舗「味の三平」の店主が味噌ラーメンを考え出し、札幌の名物になりました。中華鍋でもやしや玉ねぎを炒めてスープと合わせ、味噌専用に作られた中太の縮れ麺がそれをしっかり受け止めます。コーンやバターをのせれば、気分はもう北海道。すすきのの「元祖さっぽろラーメン横丁」で、はしごするのも楽しみです。

青い波模様の丼に、味噌色のスープ。コーン、ねぎ、ゆで卵、わかめ、黒いれんげ
札幌の味噌ラーメン。コーンやバターをのせるのも、北海道らしい楽しみ方です写真:ノボホショコロトソ / Wikimedia Commons(CC BY 4.0、トリミング・縮小)

3. 函館ラーメン ── 港町の澄んだ塩

函館は、日本で最初にラーメンが食べられた町だという説もある港町。ここの一杯は塩味です。豚骨や鶏ガラ、昆布でとった透き通ったスープは、あっさりしているのに奥深いコク。麺は縮れの少ないまっすぐな麺で、するすると喉を通ります。朝市や夜景の合間に、ほっとひと息つける味です。

淡い緑の丼に、透き通った塩スープ。チャーシュー、ねぎ、メンマ、半熟卵、まっすぐな麺
函館の塩ラーメン。丼の底まで見えそうな、澄んだスープが自慢です写真:Hector Martin / Wikimedia Commons(CC BY-SA 2.0、トリミング・縮小)
七

東北 ── 喜多方・白河

4. 喜多方ラーメン ── 朝からラーメンの町

福島県の会津地方にある喜多方は、人口5万人ほどの市に約90軒のラーメン店がある、日本有数の「ラーメンの町」。大正の終わりから昭和の初めに、中国から来た青年が屋台で支那そばを売り歩いたのが始まりといわれます。

スープは豚骨と煮干しのあっさり醤油。主役は、水分を多く含ませて寝かせた平打ちの太い縮れ麺で、もちもちとした食感がたまりません。チャーシューで丼が埋まる「肉そば」も名物。そして喜多方には、朝からラーメンを食べる「朝ラー」の文化があります。旅の朝ごはんにどうぞ。

白い丼の表面を、何枚ものチャーシューがすき間なく覆っている
喜多方の老舗食堂の一杯。麺が見えないほどチャーシューをのせた「肉そば」も名物です写真:くろふね / Wikimedia Commons(CC BY 4.0、トリミング・縮小)

5. 白河ラーメン ── 手打ち麺と、縁の赤いチャーシュー

福島県で喜多方と人気を二分するのが、県の南の入口・白河です。市内に約100軒の店があるといわれ、発祥の店「とら食堂」が今の白河ラーメンの形を確立しました。鶏ガラ・豚骨・煮干しの醤油スープに、手打ちの平打ち縮れ麺。そして、炭火で焼いてから煮る縁の赤いチャーシューが目印です。

赤と青の模様の丼に醤油スープ。縁の赤いチャーシュー、ほうれん草、海苔、平たい縮れ麺
白河ラーメン。縁が赤いチャーシューは、炭火で焼いてから煮た証しです写真:Rararamen / Wikimedia Commons(CC BY-SA 4.0、トリミング・縮小)
八

関東 ── 東京・横浜家系

6. 東京ラーメン ── すべてはここから始まった「中華そば」

来々軒から100年あまり。東京ラーメンの基本は、鶏ガラに煮干しやかつお節などの魚介のだしを合わせた醤油スープと、細めの縮れ麺です。チャーシュー、メンマ、なると、海苔、ねぎ。どこか懐かしいこの姿は、今も「中華そば」として愛されています。

東京は、ラーメンの新しいスタイルが生まれる町でもあります。麺をスープにつけて食べるつけ麺は、1955年に中野の「大勝軒」で商品になったのが始まり。旅の途中なら、東京駅の「東京ラーメンストリート」で人気店の味を食べ比べるのも手です。

白い丼に醤油スープ。味付け卵が2つ、白髪ねぎ、チャーシュー
東京駅の「東京ラーメンストリート」で食べた醤油ラーメン(2014年)写真:Guilhem Vellut / Wikimedia Commons(CC BY 2.0、トリミング・縮小)

7. 横浜家系ラーメン ── 「お好み」で自分の一杯に

1974年、横浜市磯子区の新杉田で「吉村家」が開業し、のちに「家系(いえけい)」と呼ばれるスタイルが生まれました。豚骨と鶏油(チーユ)、醤油ダレを合わせた、とろりと濃厚なスープに、コシの強い太麺。具は大きな海苔、ほうれん草、チャーシューが定番です。

家系の楽しみは「お好み」。麺の硬さ、味の濃さ、油の量を、注文のときに選べます。そしてもう一つ、ご飯(ライス)との相性は抜群。スープを吸った海苔でご飯を巻いて食べるのも、家系ならではの楽しみです。

黒い丼に茶色く濁った豚骨醤油スープ。大きな海苔、ほうれん草、チャーシュー、太い麺。左に白いご飯
家系の定番は、海苔・ほうれん草・チャーシュー、そしてライス(東京・吉祥寺の家系の店)写真:nakashi / Wikimedia Commons(CC BY-SA 2.0、トリミング・縮小)
九

北陸・近畿 ── 富山ブラック・和歌山

8. 富山ブラック ── 見た目に驚く、真っ黒なスープ

丼をのぞくと、スープが真っ黒。富山ブラックは、1947年ごろ、空襲で焼けた富山市の復興に汗を流す人たちのために、屋台の店主が始めたとされる一杯です。その屋台はのちに「大喜」という店になり、今はその味を受け継ぐ「西町大喜」が営業しています。

塩気の強い濃い醤油スープに、粗く切ったねぎと、しっかり煮込んだしょっぱいメンマ。見た目どおりのパンチのある味は、一度食べたら忘れられません。

青い模様の丼に、真っ黒なスープ。ねぎ、メンマ、チャーシュー
富山ブラックの元祖の味を受け継ぐ店の一杯。見た目どおりの、しっかり濃い醤油味です写真:Totti / Wikimedia Commons(CC BY-SA 4.0、トリミング・縮小)

9. 和歌山ラーメン ── 地元では「中華そば」、卓上には早寿司

和歌山では、ラーメンのことを「中華そば」と呼ぶのが一般的。スープは豚骨醤油で、大きく二つの系統があります。路面電車の「車庫前」の屋台から生まれた、黒く澄んだ醤油味の「車庫前系」と、豚骨を強く効かせた濁ったスープの「井出系」です。1990年代の終わりに、テレビ番組で井出商店が紹介されたことで、全国に知られるようになりました。

和歌山ならではなのが、テーブルに置かれた「早寿司(はやずし)」(サバなどの押し寿司)とゆで卵。ラーメンを待つ間に自由に食べて、お会計のときに自分で申告するのが和歌山流です。

手前に、なるととチャーシューがのった茶色いスープのラーメン。奥に緑の包みの箱が並び、ゆで卵が置かれている
和歌山の中華そば。奥に並ぶ箱が「早寿司」、右奥がゆで卵。ラーメンを待つ間につまみます写真:Sakumata / Wikimedia Commons(CC0、トリミング・縮小)
十

四国・中国 ── 徳島・尾道

10. 徳島ラーメン ── ラーメンは「ご飯のおかず」

徳島ラーメンには、スープの色で茶系・黄系・白系の三つがあります。いちばん有名なのが、豚骨に濃い醤油を合わせた「茶系」。具には甘辛く煮た豚バラ肉がのり、ここに生卵を落とすのが徳島流です。

そして地元では、ラーメンは「ご飯のおかず」。白いご飯と一緒に注文して、豚バラと卵をご飯にのせて食べるのが定番です。1990年代に新横浜ラーメン博物館の調査で注目され、「徳島ラーメン」の名前で全国に広まりました。

白い丼に、こげ茶色の濃いスープ。甘辛く煮た豚バラ肉、もやし、ねぎ、生卵の黄身
徳島ラーメンの「茶系」。生卵をくずして、豚バラと一緒にご飯にのせるのが徳島流写真:Banku / Wikimedia Commons(CC BY-SA 3.0、トリミング・縮小)

11. 尾道ラーメン ── 瀬戸内の小魚と、背脂のミンチ

坂と猫と海の町、尾道。ここのラーメンは、鶏ガラに瀬戸内の小魚のだしを合わせた、澄んだ醤油スープが自慢です。その上に浮かぶのが、豚の背脂のミンチ。ぷるぷるとした粒がスープにコクを加え、あっさりなのに満足感のある一杯になります。麺は平打ちの中細麺。昭和の初め、中国から来た人が屋台で出した支那そばが始まりといわれます。

赤い模様の丼に澄んだ醤油スープ。表面に白い背脂の粒、チャーシュー、メンマ、ねぎ
尾道ラーメン。澄んだスープに浮かぶ、背脂のミンチに注目写真:Misei sen / Wikimedia Commons(CC BY-SA 4.0、トリミング・縮小)
十一

九州 ── 博多・久留米・熊本・鹿児島

九州は豚骨ラーメンの王国。同じ豚骨でも、町ごとに驚くほど個性が違います。ルーツは福岡県の久留米で、そこから博多、熊本、鹿児島へと広がっていきました。

12. 博多ラーメン ── 極細麺と替え玉の国

白く濁った豚骨スープに、極細のまっすぐな麺。トッピングは紅しょうが、辛子高菜、ごまをお好みで。博多ラーメンの細い麺は、港町・長浜の魚市場で働く人たちに素早く出すために生まれたといわれます。

細い麺はのびやすいので、大盛りの代わりに麺だけを追加する「替え玉」が生まれました。1玉の量は少なめなので、替え玉をする前提で楽しむのがおすすめ。麺の硬さを選べるのも博多流です(硬さの呼び方は第十二章で)。

赤いテーブルの上に、白く濁った豚骨スープと極細のまっすぐな麺のラーメン。右に小さな器
博多・長浜の老舗の一杯。極細のまっすぐな麺は、すぐにゆで上がるように生まれました写真:Cheng-en Cheng / Wikimedia Commons(CC BY-SA 2.0、トリミング・縮小)

夜の博多なら、中洲や天神の屋台もぜひ。川沿いに並ぶ屋台の明かりの下で食べる一杯は、旅の思い出になります。

夜の川沿いに、明かりのついた屋台がいくつも並び、たくさんの人が座っている
博多・中洲の屋台(2008年)。一日の締めは屋台のラーメンで、という人も多い写真:mmry0241 / Wikimedia Commons(CC BY-SA 3.0、トリミング・縮小)

13. 久留米ラーメン ── すべての豚骨ラーメンのルーツ

1937年、久留米の屋台「南京千両」で豚骨ラーメンが生まれました。最初は比較的澄んだスープでしたが、1947年、屋台「三九」で白く濁ったスープが誕生します。これが九州の豚骨ラーメンの源流です。久留米の一杯は、濃厚で香りの強いスープの店が多く、大きな羽釜でスープを炊く老舗もあります。麺は博多よりやや太め。海苔がのるのも特徴です。

木造の平屋の店の前に、「南京千両」と大きく書かれたのれん。手前に自転車と鉢植え
久留米の「南京千両」。1937年に屋台から始まった、豚骨ラーメンの元祖とされる店です(2008年の写真)写真:Nissy-KITAQ / Wikimedia Commons(CC BY-SA 3.0、トリミング・縮小)

14. 熊本ラーメン ── 焦がしにんにくの香り

久留米から伝わった豚骨に、鶏ガラを合わせた、まろやかなスープ。そこに、にんにくを焦がした黒い香味油「マー油」や、揚げたにんにくチップを加えるのが熊本流です。麺は中太で、具にはきくらげ、海苔、豚バラ肉のチャーシュー。香ばしい香りが立ちのぼる一杯は、食欲をこれでもかと刺激します。

白い丼に、黒い油が浮いた豚骨スープ。チャーシュー、きくらげ、ねぎ、海苔
熊本ラーメン。黒い香味油「マー油」と、焦がしにんにくの香ばしさがたまりません写真:皇翔 / Wikimedia Commons(CC0、トリミング・縮小)

15. 鹿児島ラーメン ── 黒豚と、漬物でひと休み

旅の終わりは鹿児島へ。スープは豚骨、または豚骨と鶏ガラを合わせたものが主流で、魚介を加えるなど工夫を凝らす店もあります。麺は中太のまっすぐな麺。具には鹿児島名物の黒豚のチャーシュー、もやし、揚げ玉ねぎ、小ねぎがのります。

鹿児島らしいのが、ラーメンを待つ間に漬物をつまむ習慣。大根の漬物などが出てくる店が多く、ほっとひと息つけます。

白い丼に、薄い茶色の豚骨スープ。もやし、チャーシュー、ねぎ。左の小皿に白い大根の漬物
鹿児島ラーメン。左の小皿の大根の漬物が、鹿児島らしさです写真:Daisuke FUJII / Wikimedia Commons(CC BY 2.0、トリミング・縮小)
十二

食べに行く前に

ご当地ラーメンには、その土地ならではのお作法があります。知っておくと、一杯がもっとおいしくなります。

  • 博多の麺の硬さ ── 硬い順に「粉落とし(生)」「ハリガネ」「バリカタ」「カタ」「普通」「ヤワ」「バリヤワ」。何も言わなければ「普通」です。迷ったら「カタ」から
  • 替え玉は少し早めに ── 1杯目の麺が少し残っているうちに頼むと、スープが冷めません
  • 家系の「お好み」 ── 麺の硬さ・味の濃さ・油の量を選べます。初めてなら全部「普通」で、2回目から自分好みに
  • 和歌山の早寿司・ゆで卵 ── 卓上のものを自由に食べて、お会計のときに自分で申告します
  • 徳島はご飯と一緒に ── 生卵を入れて、豚バラをご飯にのせて
  • 喜多方の朝ラー ── 朝から開いている店があります。旅の朝ごはんに
  • 鹿児島の漬物 ── 待つ間のお楽しみ。ラーメンのあとの口直しにも
TIP

全国のラーメンを一度に食べ比べたいなら、新横浜ラーメン博物館(JR新横浜駅から徒歩5分ほど)へ。館内には各地の名店が入れ替わりで出店していて、ミニサイズを用意している店もあるので、何杯も食べ比べられます。人気店は、スープがなくなり次第閉店ということも少なくありません。出かける前に、営業時間と定休日を確認しておきましょう。

結 — 一枚まとめ

  1. ラーメンのふるさとは中国。幕末の開港で南京町ができ、1910年の浅草「来々軒」で日本の醤油ラーメンの原型が生まれた。
  2. 震災で職人が全国へ、戦後は屋台が広がり、1958年のチキンラーメンで「ラーメン」の名が全国区に。
  3. 醤油・味噌・塩はタレ、豚骨はだしの呼び名。一杯はスープ・タレ・香味油・麺・具の五つでできている。
  4. 日本三大ラーメンは札幌(味噌)・喜多方(醤油)・博多(豚骨)。豚骨のルーツは久留米。
  5. 朝ラー、替え玉、お好み、早寿司、ご飯と生卵。その土地のお作法ごと味わうのが、ご当地ラーメンのいちばんの楽しみ方。

参考

店の情報や年号は2026年10月時点で公開されている資料をもとにしています。ラーメンの起源や名前の由来には諸説あります。写真は Wikimedia Commons で再利用が認められているもので、店の外観・丼・街並みのみを選びました。図と地図は筆者が作成しました。

グルメノート No.1 — 日本のラーメン、北から南へ / 2026.10

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