Food Notes / 2026 ・ No.07

日本酒のはなし

米と水と麹がつくる、1300年の物語

公開

木のテーブルに、緑や茶色、青のラベルの日本酒の瓶が5本並び、手前に白いおちょこが置かれている
ラベルも味もさまざまな日本酒。同じ「米と水と麹」から、これだけの個性が生まれます写真:Culture Japon / Wikimedia Commons(CC BY-SA 4.0、トリミング・縮小)

原料は、米と水と麹。たったそれだけなのに、果物のような華やかな香りの酒もあれば、お米のうまみがどっしり響く酒もある。
冷やしても、温めても楽しめて、季節ごとに表情を変える──日本酒は、とても懐の深いお酒です。
この記事では、世界でも珍しい造り方の秘密、ラベルの読み方、1300年の歴史、全国の酒どころ、そしておいしい飲み方まで、日本酒の世界をめぐります。

一

日本酒とは

日本酒(清酒)は、米と米麹と水を主な原料に発酵させ、こして造るお酒です。ワインやビールと同じ「醸造酒」の仲間ですが、造り方はとても独特。アルコール度数は15度前後のものが多く、醸造酒のなかでは高めです。

2015年には「日本酒」という名前が地理的表示(GI)に指定され、日本産の米を使って日本国内で造った清酒だけが「日本酒」を名乗れるようになりました。そして2024年12月、麹菌を使う日本の「伝統的酒造り」が、ユネスコの無形文化遺産に登録されています。

酒蔵の軒先に吊るされた、杉の葉を丸めた杉玉(酒林)を見たことがありますか? 青々とした杉玉は「今年の新酒ができました」の合図。それが少しずつ茶色に枯れていくのを見ながら、季節とともにお酒の熟成を楽しむのが、日本酒ならではの風情です。

酒蔵の軒先に吊るされた、緑色の大きな杉玉と、「酒林」と書かれた説明板
熊本・山鹿の千代の園酒造の杉玉(酒林)。青々とした杉玉は「新酒ができました」の合図です写真:Makoragi / Wikimedia Commons(CC BY 4.0、トリミング・縮小)
二

世界でも珍しい造り方

お酒のアルコールは、酵母が糖を食べてつくります。ところが、米に含まれているのは糖ではなくでんぷん。そこで活躍するのが麹(こうじ)です。蒸した米に麹菌を育てた米麹は、でんぷんを糖に変える酵素をたっぷり持っています。

面白いのは、日本酒ではこの「でんぷん→糖」(糖化)と「糖→アルコール」(発酵)が、同じタンクの中で同時に進むこと。これを並行複発酵といいます。ぶどうの糖をそのまま発酵させるワインや、先に糖化してから発酵させるビールとは違う、世界でも珍しい造り方です。

米が日本酒になるまで

1 精米 米の外側を削る 2 洗米・浸漬 洗って水を吸う 3 蒸米 強い蒸気で蒸す 4 麹づくり 米に麹菌を育てる 5 酒母 酵母を増やす 6 もろみ 3回に分けて仕込む 7 上槽 しぼって酒と粕に 8 火入れ・貯蔵 加熱して熟成 もろみのタンクの中では…… でんぷん 糖 アルコール 麹のはたらき 酵母のはたらき 2つが同じタンクで同時に進む=並行複発酵 ワインはぶどうの糖を発酵させるだけ。 ビールは糖化してから発酵させる。 日本酒はその2つを一度に進める、世界でも珍しい造り方

もろみは、麹・蒸米・水を3回に分けて仕込みます(初添・仲添・留添の「三段仕込み」)。一度にたくさん入れると酵母が負けてしまうので、少しずつ量を増やしながら育てていくのです。

大きな白いタンクのもろみを、蔵人たちが長い櫂棒でかき混ぜている
もろみを櫂(かい)でかき混ぜる蔵人たち。タンクの中では、糖化と発酵が同時に進んでいます写真:Sake-simon / Wikimedia Commons(CC BY-SA 3.0、トリミング・縮小)

酒造りに向いた米は酒造好適米(酒米)と呼ばれ、粒が大きく、中心に心白という白くやわらかい部分があるのが特徴です。いちばん有名なのは1923年に兵庫県で生まれた山田錦で、酒米の生産量の約4割を占めます。新潟生まれの五百万石が約2割で続き、岡山の雄町も根強い人気です。

黒い布の上に広げた、白っぽい米粒
兵庫県産の山田錦。「酒米の王様」と呼ばれ、酒造好適米の生産量の約4割を占めます写真:Simon-sake / Wikimedia Commons(CC BY 2.5、トリミング・縮小)
三

ラベルの読み方 ── 純米・吟醸・大吟醸

日本酒のラベルにある「純米」「吟醸」「大吟醸」。これは国が定めた特定名称酒の種類で、2つのものさしで決まります。

  • 精米歩合:玄米をどこまで削ったか。60%なら、外側の40%を削り取ったという意味。米の外側にはたんぱく質や脂質が多く、雑味のもとになるので、よく削るほどすっきり華やかな味わいになります。
  • 醸造アルコールを使うか:「純米」とつくのは、米と米麹だけで造ったお酒。つかないものは、香りを引き立てたり軽やかにしたりするために、醸造アルコールを少し加えています。

どこまで削る? 精米歩合と特定名称酒

100% 玄米 削る前 70% 本醸造 70%以下 60% 吟醸 60%以下 50% 大吟醸 50%以下 中心の白い部分=心白 精米歩合 米と米麹だけ +醸造アルコール 50%以下 純米大吟醸酒 大吟醸酒 60%以下 純米吟醸酒 吟醸酒 60%以下か特別な製法 特別純米酒 特別本醸造酒 70%以下/規定なし 純米酒(規定なし) 本醸造酒(70%以下)

吟醸酒・大吟醸酒は「吟醸造り」(低温でゆっくり発酵させる造り方)で造られ、果物のような「吟醸香」が特徴です

もうひとつ、ラベルでよく見るのが日本酒度。お酒の比重から計算する数字で、プラスが大きいほど糖分が少なく辛口、マイナスが大きいほど甘口の目安になります。ただし、同じ糖分でも酸が多いと辛く感じるので、「酸度」とあわせて見るのがコツです。

「大吟醸がいちばんえらい」というわけではありません。香り高い大吟醸は冷やしてワイングラスで、お米のうまみがしっかりした純米酒は燗で、と、それぞれに輝く場面があります。

四

1300年の歴史

神さまのお酒、お寺のお酒

米麹を使った酒造りがはじめて記録に登場するのは、716年ごろの『播磨国風土記』。神さまに供えた米に「かび」が生えたので、それで酒を造って宴を開いた──という話が残っています。奈良・平安時代には朝廷に造酒司(みきのつかさ)という役所が置かれ、宮中の酒を造りました。

室町時代から戦国時代にかけて名声を得たのが、奈良などの大寺院で造られた僧坊酒です。奈良の正暦寺は、乳酸発酵を生かした酒母「菩提酛」の原形が生まれた寺として知られます。1576年以降の記録には、麹米にも掛米にも白米を使う「諸白(もろはく)」が登場し、「南都諸白」として高く評価されました。いまの清酒に通じる技は、このころにほぼ出そろったといわれます。

灘の酒が、船で江戸へ

江戸時代になると、冬の寒い時期に集中して造る寒造りが定着し、農閑期の出稼ぎで集まる職人集団から杜氏の制度が生まれました。

大消費地・江戸の人々が好んだのは、上方から船で運ばれる「下り酒」。はじめは伊丹の酒が名声を得て、やがて海に近い灘が台頭します。酒樽だけを積んだ樽廻船は、大坂から江戸まで、17世紀後半には平均1か月かかっていたのが、幕末には10日〜2週間にまで短縮されました。江戸後期には、江戸で飲まれる酒の約8割が灘の酒だったといいます。ちなみに、上方から下ってこない、つまらないものを「くだらない」というのは、この下り酒から来たという俗説もあります。

1840年には、灘で宮水(みやみず)が見いだされます。西宮の井戸水で造った酒が格別だったことから、酒造りに向いた名水として知られるようになりました。

黒い板張りの大きな木造の酒蔵に、「清酒 灘泉」の看板
灘五郷に残る木造の酒蔵(泉勇之介商店、国の登録有形文化財)写真:Pastern / Wikimedia Commons(CC BY-SA 3.0、トリミング・縮小)

科学の時代、そして世界へ

1904年には国立の醸造試験所ができ、すぐれた酵母を選んで全国の蔵に配る「協会酵母」の仕組みも生まれました。勘と経験に科学が加わり、品質が大きく安定していきます。

一方、戦後の米不足の時代には、醸造アルコールや糖類で量を増やした酒(増醸酒)も造られましたが、2006年の酒税法改正で清酒の定義から外れました。日本酒の出荷量は1975年度の約175万kLをピークに減り、2023年度は約39万kLとピーク時の2割ほど。けれどもその間に、吟醸酒や純米酒など「量より質」の酒が花開きました。

そしていま、日本酒は世界へ。2025年の輸出額は約459億円で、輸出先は過去最多の81の国と地域に広がりました。国別では中国(約133億円)と米国(約110億円)が2本柱です。

年表で見る日本酒の歩み

716 『播磨国風土記』に、こうじで造った酒の話 平安 朝廷の「造酒司」が酒を造る 室町 奈良の寺の「僧坊酒」が名酒に 1576〜 白米だけで造る「諸白」の記録 江戸 伊丹・灘の酒が船で江戸へ「下り酒」 1840 灘で「宮水」が見いだされる 1904 国立の醸造試験所ができる 1923 酒米の王様「山田錦」が生まれる 1975 出荷量がピーク(約175万kL) 2015 地理的表示「日本酒」が指定される 2024 「伝統的酒造り」がユネスコ無形文化遺産に
神社の境内に、銘柄名が書かれたこも樽がいくつも積み上げられている
奈良・春日大社に奉納された酒樽。日本酒は昔から神さまに捧げるものでもありました写真:Bruno_53 / Wikimedia Commons(CC BY 2.0、トリミング・縮小)
五

酒どころをめぐる

日本酒は北海道から沖縄まで全国で造られていて、清酒を造る事業者は全国で約1,200あります。よい米と、よい水と、冬の寒さ──この3つがそろう土地に、名高い酒どころが生まれました。国税庁の調査では、出荷量(課税移出数量)の上位は兵庫県・京都府・新潟県、事業者の数では新潟県・長野県・福島県・兵庫県・山形県が上位に並びます。地図の番号を押すと、それぞれの説明へ移動します。

1. 秋田

米どころであり、雪国でもある秋田は、出荷量で全国5位に入る酒どころです。

2. 山形

清酒を造る事業者の数で全国5位。2016年には、県単位で全国で初めての清酒の地理的表示「山形」が指定されました。

3. 新潟 ── 蔵の数 日本一、「淡麗」の故郷

新潟は、酒蔵の数が全国でいちばん多い県です。冬に積もった雪がゆっくり溶けてできる、ミネラルの少ない軟水は、発酵を穏やかに進め、きめ細かくすっきりした酒を生みます。1957年に誕生した酒米「五百万石」、越後杜氏の技、そして1984年に開校した「新潟清酒学校」で若手を育てる仕組みが、「新潟淡麗」と呼ばれる味わいを支えています。

4. 会津(福島)

福島県は事業者の数で全国3位タイ。とくに会津地方には蔵が多く、2024年には「南会津」と「喜多方」が清酒の地理的表示に指定されました。

木のカウンターに、紫やピンクのラベルの日本酒の瓶が3本と、白い利き猪口が3つ
会津の日本酒の飲み比べ。福島県は清酒を造る事業者の数が全国3位タイの酒どころです写真:Gyutan lover / Wikimedia Commons(CC BY-SA 4.0、トリミング・縮小)

5. 長野

清酒を造る事業者の数は、新潟に次いで全国2位。山あいの各地に酒蔵が点在し、地理的表示「長野」「信濃大町」も指定されています。

6. 伏見(京都) ── やわらかな「女酒」

京都府は出荷量で全国2位。その中心が伏見です。伏見の水「伏水」は硬度が80前後の中硬水で、灘より発酵が穏やかに進むため、糖分が残りやすく、口あたりのやわらかな「女酒」と呼ばれてきました。

黒い板塀の酒蔵と、赤れんがの高い煙突
京都・伏見の松本酒造。伏見は、出荷量で全国2位の京都府を支える酒どころです写真:663highland / Wikimedia Commons(CC BY 2.5、トリミング・縮小)

7. 奈良 ── 清酒のふるさと

室町時代の僧坊酒や「南都諸白」の舞台となった奈良は、いまの清酒につながる技術が育った土地です。正暦寺は、菩提酛ゆかりの寺として知られています。

8. 伊丹(兵庫) ── 江戸の人気者

江戸時代前期に「伊丹諸白」「丹醸」と呼ばれて名を馳せた名醸地。江戸へ下る酒の主役でした。2024年には「伊丹」が清酒の地理的表示に指定されています。

9. 灘(兵庫) ── 出荷量日本一、力強い「男酒」

兵庫県は出荷量で全国1位。その中心が、神戸市から西宮市にかけての灘五郷です。宮水は硬度が約180の硬水で、酵母が元気に働いて糖分をよく食べるため、きりっとした辛口の「男酒」になるといわれます。酒米の王様・山田錦の産地が近いのも強み。2018年には「灘五郷」が地理的表示に指定されました。

10. 西条(広島) ── 軟水を克服した酒どころ

ミネラルの少ない軟水は、酵母の働きが弱く、昔は酒が腐ってしまうこともありました。明治の末、広島の三浦仙三郎は、自分の蔵の失敗の原因が軟水にあると考え、実験を重ねて軟水醸造法を確立します。この技術が広島の酒を名酒に押し上げ、赤れんがの煙突が並ぶ西条は、いまも全国有数の酒の町です。

朝日の中、煙突が並ぶ町から白い湯気がもくもくと立ちのぼっている
広島・西条の「仕込みの朝」。酒蔵の煙突から、米を蒸す湯気が立ちのぼります写真:東広島市 / Wikimedia Commons(CC BY-SA 4.0、トリミング・縮小)

11. 佐賀

九州は焼酎のイメージが強いものの、佐賀は日本酒の酒どころ。2021年に、県全体を産地とする地理的表示「佐賀」が指定されました。

六

温度で変わる、おいしい飲み方

日本酒のいちばんの魅力は、温度で表情が変わること。冷やせば香りが引き締まってすっきりと、温めればお米のうまみや甘みがふくらみます。温度ごとに、こんなに美しい呼び名がついています。

5℃から50℃まで、温度の呼び名

常温の「冷や」 雪冷え 5℃ 花冷え 10℃ 涼冷え 15℃ 日向燗 30℃ 人肌燗 35℃ ぬる燗 40℃ 上燗 45℃ 熱燗 50℃ 冷やして 温めて(燗) ※ 同じお酒でも、温度で香りや甘み・うまみの感じ方が変わります
  • 香りを楽しむ吟醸酒・大吟醸酒は、花冷え〜涼冷えくらいに冷やして、ワイングラスで。
  • うまみの豊かな純米酒や本醸造酒は、ぬる燗〜上燗に温めると、まろやかさが増します。燗は、徳利ごとお湯につける湯せんでゆっくりと。
  • 升に入れたグラスにあふれるまで注ぐ「もっきり」は、お店の心意気。こぼさないよう、まずはグラスに口を近づけてひと口どうぞ。
白地に藍色の模様の徳利と、おそろいの2つの盃
徳利と盃。燗をつけるなら、徳利ごとお湯につける「湯せん」がおすすめ写真:Mr.ちゅらさん / Wikimedia Commons(CC BY-SA 4.0、トリミング・縮小)
赤い漆の升の中にグラスを置き、日本酒をなみなみと注いで、升にまであふれさせている
升の中のグラスに、あふれるまで注ぐ「もっきり」。お店の心意気のあらわれです写真:Intforce / Wikimedia Commons(CC BY-SA 4.0、トリミング・縮小)

そして、日本酒を飲むときの合言葉は「和らぎ水(やわらぎみず)」。お酒と同じくらいの量の水を合間に飲むと、酔いがゆるやかになり、舌もリセットされて、次の一杯がまたおいしく感じられます。

NOTE

20歳未満の飲酒は法律で禁止されています。妊娠中・授乳中の飲酒は避け、飲酒運転は絶対にやめましょう。お酒は適量を守り、体調にあわせて楽しんでください。

結 — 一枚まとめ

  1. 日本酒は米・米麹・水から。糖化と発酵が同時に進む並行複発酵は、世界でも珍しい造り方。
  2. ラベルは精米歩合と醸造アルコールの有無で読む。純米は米と米麹だけ、大吟醸は50%以下まで削る。
  3. 716年の播磨国風土記から、僧坊酒、江戸の下り酒、科学の時代を経て、2024年にユネスコ無形文化遺産へ。
  4. 出荷量は兵庫・京都・新潟が上位。蔵の数は新潟が日本一。水の違いが、灘の男酒・伏見の女酒を生む。
  5. 雪冷えから熱燗まで、温度で変わる味を楽しもう。お供に和らぎ水を。

参考

数値は記事執筆時点の公表資料によります。写真は Wikimedia Commons で再利用が認められているもので、撮影者とライセンスは各写真の下に記しました。図とイラスト、地図は筆者が作成しました(地図は国土地理院「地球地図日本」をもとにしたデータを使用)。

グルメノート No.7 — 日本酒のはなし / 2026.10

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