Food Notes / 2026 ・ No.05

焼き鳥のはなし

野鳥の串焼きから、街角の赤ちょうちんへ

公開

横長の皿に、もも、ねぎま、レバー、ハツ、つくねなど9本の焼き鳥が並んでいる
焼き鳥の盛り合わせ。部位ごとに食感も味もまったく違うのが、焼き鳥の楽しさです写真:N509FZ / Wikimedia Commons(CC BY-SA 4.0、トリミング・縮小)

炭火の上で脂がはじけ、甘辛いタレの香ばしい煙が通りまで流れてくる。
仕事帰りの一杯にも、家族の夕ごはんにも、焼き鳥はいちばん身近な「ごちそう」かもしれません。
でも、鶏肉を串に刺して焼くこの料理が、いまの形になったのは意外と最近のことです。
この記事では、焼き鳥の歴史を年表でたどり、部位と串の図鑑、塩とタレ、焼き台の秘密、ご当地やきとりの地図、名店まで紹介します。

一

焼き鳥とは

焼き鳥は、鶏肉やその内臓、皮などをひと口大に切って串に刺し、炭火などで焼いて、塩やタレで味わう料理です。一本ずつ注文できる気軽さと、部位ごとにまったく違う食感や味わいが魅力です。

ただし「焼き鳥」の中身は、時代や土地によって少しずつ違います。明治・大正のころまでは、焼き鳥といえばスズメやツグミなどの野鳥を姿のまま焼いたものでした。また、いまでも地域によっては、豚や牛の肉・内臓の串も「やきとり」と呼びます。焼き鳥は、思った以上に懐の深い料理なのです。

二

野鳥から鶏へ ── 焼き鳥の歴史

野鳥を焼いた時代

鶏は弥生時代に日本へ渡ってきたとされますが、長く卵をとるために飼われ、675年の肉食禁止令では牛や馬と並んで食べることを禁じられました。その一方で、雉や鴨、小鳥などの野鳥は、体をいたわる「薬食い」として食べられていました。

1643年に出た料理書『料理物語』には「串やき」の項目があり、白鳥や雁、鴨などの野鳥が挙げられています。ちなみに、いまや焼き鳥の定番「ねぎま」は、もともと江戸時代にねぎとマグロを串に刺して焼いた料理の名前だったといわれます。

明治の屋台と「もつ」の串

明治になって肉食が解禁されても、鶏肉は牛肉より高価で、軍鶏(しゃも)鍋などで食べるごちそうでした。明治の半ばに登場した焼き鳥の屋台では、料理屋が使わない端肉や内臓を串に刺してタレで焼き、牛や豚の臓物も一緒に「やきとり」と呼んで売りました。鶏以外の串も「やきとり」と呼ぶのは、その名残だといわれます。

1921年(大正10年)には、東京・京橋に伊勢廣が開業します。戦前は軍鶏を使っていたといい、戦後から受け継ぐ醤油と味醂だけのタレをいまも継ぎ足しながら使っています。ただ、昭和初期の鶏肉の焼き鳥は、まだ一部の高級店で食べるものでした。

戦後の横丁と、ブロイラーの時代

戦後の焼け跡では、昭和21年ごろ、新宿駅の西口に露店や屋台が集まって闇市ができました。そこで豚のモツを串に刺して売ったところ飛ぶように売れ、焼き鳥屋が次々と生まれたのが、いまの思い出横丁のルーツです。

焼き鳥が本当に「みんなの料理」になったのは、ブロイラー(短期間で育つ食肉用の鶏)が広まってからです。昭和30年代後半にアメリカから導入され、出荷羽数は1965年の約1億羽から、1974年には約4億羽にまで増えました。安くておいしい鶏肉が手に入るようになり、1960年代には焼き鳥の大衆化が進みます。

1985年には、大阪で鳥貴族が全品250円均一の焼き鳥店として開業し、チェーン店も広がりました。一方で1980年代以降は、味や個性を求めて銘柄鶏や地鶏が開発され、それを売りにする専門店も増えていきます。ワインと合わせたり、コースで一羽を余さず味わったりする店も現れ、焼き鳥はミシュランガイドに載る料理にもなりました。

年表で見る焼き鳥の歩み

675 肉食禁止令。鶏も食べることを禁じられる 1643 『料理物語』に鴨や雁などの「串やき」 明治半ば 焼き鳥の屋台が登場。端肉や内臓を串に 1921 東京・京橋に「伊勢廣」が開業 1930年代 室蘭で豚肉の「やきとり」の屋台 1946頃 新宿の闇市でもつ焼き(思い出横丁) 1955頃 美唄で「もつ串」が生まれる 1960年代 ブロイラーが普及し、焼き鳥が大衆化 1985 大阪で鳥貴族が開業(全品250円均一) 1990年代〜 銘柄鶏や地鶏をうたう店が増える 2007 目黒に「鳥しき」。のちにミシュランの星

年代には諸説あるものを含みます

「新宿 思い出横丁 西口」と書かれた緑の看板と、細い路地に並ぶ店
新宿・思い出横丁の入口。戦後の闇市から生まれ、もつ焼きや焼き鳥の店が軒を連ねます写真:Grendelkhan / Wikimedia Commons(CC BY-SA 4.0、トリミング・縮小)
三

部位と串の図鑑

焼き鳥の楽しさは、一羽の鶏からとれるいろいろな部位を食べ比べられること。まずは、どこがどの串になるのかを見てみましょう。

鶏の体と、焼き鳥の部位

むね もも せせり(首) やげん軟骨 ささみ 手羽元 手羽先 ぼんじり ※ 点線はむね肉の内側にあるささみ。皮は首・むね・ももなど全身から取れます

焼き鳥10本の図鑑

ねぎま 両方おすすめ ももとねぎ もも 両方おすすめ 肉汁たっぷり ささみ 塩・わさび やわらかく淡白 皮 両方おすすめ カリッと香ばしく つくね タレ・卵黄 鶏のひき肉 ぼんじり 塩 脂がじゅわっと せせり 塩 首の肉。弾力 手羽先 塩 皮と骨のうまみ 砂肝 塩 コリコリ食感 レバー タレ とろりと濃厚 ※ 塩・タレは目安です。店によっておすすめは違います
串部位味わい
もも・ねぎま脚の付け根から足よく動く部位で肉厚。脂と弾力があり、うまみとコクが強い
むね・ささみ胸と、その内側の筋肉脂が少なく、さっぱりやわらか。ささみはとくに淡白
せせり首よく動く筋肉で、ぷりぷりと弾力がある。噛むほど肉汁が出る
皮・ぼんじり皮、尾の付け根脂のうまみを楽しむ串。ぼんじりは一羽から少ししかとれない
手羽先翼の先皮と骨のまわりの身がおいしい
砂肝胃の一部(筋胃)筋肉が発達していて、コリコリ。くせが少ない
レバー・ハツ肝臓・心臓レバーはとろりと濃厚、ハツは弾力があってさっくり
なんこつ胸の先(やげん)やひざコリコリとした独特の食感
つくねひき肉団子状や棒状に成形。店ごとに味や具が違う
皿の上に、鶏肉と長ねぎを交互に刺したタレ焼きの串が2本
ねぎま。鶏肉の間に長ねぎを挟んだ、焼き鳥の代表選手写真:Ocdp / Wikimedia Commons(CC0、トリミング・縮小)
皿の上に、タレで焼いた鶏皮の串が3本
皮。脂を落としながらじっくり焼くと、外はカリッと、中はもっちり写真:Ocdp / Wikimedia Commons(CC0、トリミング・縮小)
皿の上に、丸く成形して焼いたつくねの串
つくね。鶏のひき肉を丸めて焼いたもので、店ごとに味つけや形が違います写真:Ocdp / Wikimedia Commons(CC0、トリミング・縮小)
皿の上に、小さな砂肝を刺した串が並んでいる
砂肝。コリコリした歯ごたえで、塩焼きが定番写真:Ocdp / Wikimedia Commons(CC0、トリミング・縮小)

「ハツ」は英語の hearts(心臓)から来た呼び名です。もものつけ根近くにある希少部位「ソリ」は、フランス語の sot-l'y-laisse(気づかずに残してしまう愚か者)が語源とされ、銀座の「バードランド」が呼び始めたといわれます。

四

塩か、タレか

焼き鳥屋さんで必ず聞かれるのが「塩とタレ、どちらにしますか?」。

  • 塩は、素材の味がまっすぐ伝わります。ささみ、せせり、砂肝、ぼんじり、手羽先など、肉の質や食感、脂のうまみを楽しむ部位に向いています。
  • タレは、醤油と味醂などを合わせた甘辛い味。焼いては漬けて、を繰り返すと香ばしく照りが出ます。レバーやつくねは、タレと好相性です。老舗では、減った分を少しずつ足していく「継ぎ足し」のタレを大切に守っている店もあります。

もも、ねぎま、皮は、塩でもタレでもおいしい部位。迷ったら両方頼んで食べ比べるのも楽しいものです。七味唐辛子や山椒、わさびなどの薬味も、味の変化をつけてくれます。

五

焼き台と備長炭

焼き鳥屋のカウンターの向こうには、細長い焼き台があります。中には炭が並び、串を台の縁に渡して、何度も返しながら焼き上げます。

焼き台のしくみ

備長炭 焼き台 串は台の縁に渡して焼く うちわ ※ 備長炭は高温になり、炎や煙が立ちにくいので、焼き鳥に向いています

多くの専門店が使うのが備長炭です。1000℃を超える高温になり、炎が立たないので焦げにくく、においも出ないため、素材の風味を損なわずにうまみを閉じ込められるといわれます。

木の板の上に、断面の見える黒い備長炭が積み重なっている
備長炭。ウバメガシなどからつくる硬い白炭で、高温で長く燃え続けます写真:STRONGlk7 / Wikimedia Commons(CC BY-SA 3.0、トリミング・縮小)
住宅街の角にある小さな焼き鳥店。赤ちょうちんの下に人が並び、犬も見ている
東京・世田谷の町の焼き鳥屋さん。持ち帰りの焼き鳥は、昔から夕方の楽しみです写真:Syced / Wikimedia Commons(CC0、トリミング・縮小)
六

ご当地やきとりをめぐる

焼き鳥は全国どこにでもありますが、土地によって使う肉も焼き方もさまざまです。室蘭・東松山・今治は「日本三大やきとり」と呼ばれ、さらに美唄・福島・長門・久留米を加えて「日本七大やきとり」と呼ばれることもあります。地図の番号を押すと、それぞれの説明へ移動します。

1. 美唄(北海道) ── 一本に部位が詰まった「もつ串」

炭鉱の町として栄えた美唄で、1955年ごろに生まれた焼き鳥です。レバー、ハツ、砂肝、キンカン(産卵前の卵)などのモツと、もも肉や皮を一本の串に刺し、間には長ねぎではなく美唄名産の玉ねぎを挟みます。一羽を余さず食べようという知恵から生まれた串で、10本単位で注文するのが一般的です。

2. 室蘭(北海道) ── 豚肉と玉ねぎ、洋がらし

製鉄業で栄えた室蘭の屋台で、1930年代に始まったとされます。鶏肉より手に入りやすかった豚肉やモツを焼いたのが起源で、いまも豚肩ロースと玉ねぎを交互に刺し、甘辛いタレで焼いて洋がらしを添えるのが室蘭流です。

皿の上に、豚肉と玉ねぎを交互に刺した串が4本と、黄色い洋がらし
室蘭やきとり。名前は「やきとり」でも、主役は豚肉。洋がらしをつけて食べます写真:欅 / Wikimedia Commons(CC BY-SA 3.0、トリミング・縮小)

3. 東松山(埼玉) ── 豚かしらと辛い味噌だれ

東松山の定番は、豚のカシラ(頭の肉)とねぎの串。焼き上がった串に辛味噌のタレをたっぷりつけて食べます。市内には40軒以上の店があり、1969年創業の「とくのや」のように、席に着くとまずカシラが出てくる店もあります。

4. 東京 ── 老舗と横丁

東京には、1921年創業の京橋「伊勢廣」のような老舗から、新宿の思い出横丁のような赤ちょうちんの横丁、銘柄鶏を使ったカウンターの名店まで、焼き鳥の歴史がぎゅっと詰まっています。

5. 今治(愛媛) ── 鉄板で焼く、串のない焼き鳥

今治の焼き鳥は、串に刺さずに厚い鉄板で焼くのが特徴。約50年前に生まれ、せっかちで待たされるのを嫌う商人の町の気質に合って人気となり、かつては鉄板焼き鳥の店が100軒以上あったといいます。看板メニューの皮は、小さな鉄の重しで押さえて、鶏の脂で揚げるように焼き、甘辛いタレで味わいます。最初に皮、〆に「せんざんき」(から揚げ)というのが地元の通の食べ方です。

皿の上に、串に刺さずに鉄板で焼いた鶏皮と、甘辛いタレ
今治の焼き鳥(皮)。串に刺さず、鉄板で押さえながらカリッと焼き上げます写真:Sanpei / Wikimedia Commons(CC BY-SA 3.0、トリミング・縮小)

6. 長門(山口) ── ガーリックパウダーをひと振り

長門では、鶏・牛・豚の串にガーリックパウダーをかけて食べるのが特徴。一味や七味唐辛子をかけることもあり、香ばしさとパンチの効いた味わいが楽しめます。

7. 久留米(福岡) ── ダルムにヘルツ、何でも「やきとり」

久留米は、人口あたりのやきとり店の数が日本屈指といわれる街。串に刺したものなら何でも「やきとり」と呼び、鶏だけでなく豚や牛、馬まで並びます。医学部や病院が多い土地柄から、腸をダルム、心臓をヘルツとドイツ語で呼ぶ部位があるのも面白いところです。

皿の上に、キャベツと、かしわ、とり皮、つくね、アスパラ巻きなどの串が並んでいる
久留米・又兵衛の焼き鳥。キャベツを添えるのが久留米流です写真:Asturio Cantabrio / Wikimedia Commons(CC BY-SA 4.0、トリミング・縮小)
夜の街角に、「大衆焼鳥 日吉丸」の看板とちょうちんが灯る店
久留米の焼き鳥店「日吉丸」。久留米は人口あたりのやきとり店の多さで知られます写真:Asturio Cantabrio / Wikimedia Commons(CC BY-SA 4.0、トリミング・縮小)
七

老舗と名店

焼き鳥の歴史をつくってきた老舗と、焼き鳥の楽しみ方を広げた名店を紹介します。

店名開業場所ひとこと
伊勢廣1921年東京・京橋醤油と味醂だけのタレを継ぎ足して守る老舗。備長炭で焼くコースも
宝来家戦後まもなく東京・新宿(思い出横丁)闇市で豚のモツの串を売り出したのが始まり。思い出横丁の元祖の焼き鳥店といわれる
とくのや1969年埼玉・東松山まずカシラが2本。辛味噌をたっぷり塗るのが東松山流
鳥貴族1985年大阪(1号店)創業時は全品250円均一。均一価格の焼き鳥チェーン
バードランド―東京・銀座奥久慈しゃもを使い、焼き鳥とワインを合わせた先駆け。一羽を使い切るコースも
鳥しき2007年東京・目黒カウンター12席。ミシュランガイドで10年以上一つ星を保つ人気店

開業年は各店の紹介記事や報道、テレビ東京「アド街ック天国」などによります。営業時間や予約の方法は変わることがあるので、出かける前に各店の公式情報をご確認ください。

八

おいしく、安全に食べるコツ

  • 焼きたてを、すぐに。焼き鳥は冷めると脂が固まり、身もかたくなります。出てきたら熱いうちに。
  • あっさりから、こってりへ。塩のささみや砂肝から始めて、タレのつくねやレバーへ進むと、最後まで味の違いを楽しめます。
  • 薬味で変化を。七味唐辛子や山椒をひと振りすると、脂の多い串もさっぱり食べられます。
  • 中までしっかり火を通す。家庭やバーベキューで焼くときは、鶏肉の中心まで十分に加熱しましょう。生肉用のトングと、食べる箸は分けて使います。
NOTE

鶏肉には、カンピロバクターなどの食中毒菌がついていることがあります。生や加熱不足の鶏肉は避け、とくに子どもや高齢者など抵抗力の弱い人は注意してください。食中毒が疑われる症状が出たときは、早めに医療機関を受診しましょう。

結 — 一枚まとめ

  1. 焼き鳥のルーツは野鳥の串焼き。明治・大正までは、焼き鳥といえばスズメなどの野鳥だった。
  2. 明治の屋台では端肉や内臓を串に。戦後は闇市から横丁が生まれた。
  3. ブロイラーの普及で1960年代に大衆化。その後、銘柄鶏や地鶏、星付きの名店も登場。
  4. 部位はもも・むね・ささみ・せせり・皮・ぼんじり・砂肝・レバーなど。塩は素材の味、タレは香ばしさ。
  5. 室蘭・東松山・今治の三大やきとりをはじめ、豚の串や鉄板焼きまで、ご当地やきとりは多彩。

参考

歴史や年代には諸説あります。写真は Wikimedia Commons で再利用が認められているもので、撮影者とライセンスは各写真の下に記しました。図とイラスト、地図は筆者が作成しました(地図は国土地理院「地球地図日本」をもとにしたデータを使用)。

グルメノート No.5 — 焼き鳥のはなし / 2026.10

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