Food Notes / 2026 ・ No.06

和牛のはなし

田畑の相棒から、世界の「WAGYU」へ

公開

トレーの上に、白い脂が網の目のように細かく入った厚切りの牛肉
近江牛。赤身のすみずみまで、細かな霜降り(サシ)が網の目のように入っています写真:Syced / Wikimedia Commons(CC0、トリミング・縮小)

口に入れた瞬間、ふわっと甘い香りがして、脂がすっと溶けていく。
そんな和牛の「とろける」おいしさは、偶然ではなく、何百年もかけて人と牛がつくりあげてきたものです。
かつては田畑を耕す相棒だった牛が、なぜ世界が憧れるごちそうになったのか。
この記事では、4つの品種、1頭の伝説の種牛、霜降りの科学、そして全国の産地まで、和牛の物語をたどります。

一

「和牛」と「国産牛」はちがう

スーパーの売り場で「和牛」と「国産牛」が並んでいると、どちらも日本の牛でしょ?と思いがち。でも、この2つはまったく別の言葉です。

  • 和牛は、牛の品種の名前です。黒毛和種・褐毛和種・日本短角種・無角和種の4品種と、その品種どうしの交雑種だけが和牛を名乗れます。2007年からは、家畜の登録制度で品種が確かめられ、牛のトレーサビリティ制度で日本で生まれ育ったことが確かめられる牛に限られています。
  • 国産牛は、産地の表示です。品種は問わず、ホルスタインなどの乳牛や交雑種も含まれます。外国で生まれた牛でも、国内での飼育期間のほうが長ければ「国産」と表示できます。

つまり、和牛は「日本で生まれ育った、日本の4品種の牛」。この記事の主役はこちらです。

二

和牛は4品種だけ

和牛の4品種は、どれも日本の在来の牛に外国の牛を交配し、長い時間をかけて改良してきたもの。見た目も、肉の個性も、育つ土地もそれぞれです。

和牛の4品種

黒毛和種 全国 霜降りになりやすい 和牛の9割以上を占める主役 褐毛和種(あか牛) 熊本・高知 赤身と脂のバランスがよい 濃厚なうまみ 日本短角種 東北北部・北海道 夏は山で放牧する「夏山冬里」 赤身が多く、うまみ豊か 無角和種 山口県のみ 角がない。赤身が中心の肉 約200頭だけの希少種 ※ この4品種と、その品種どうしの交雑種だけが「和牛」と表示できます
横向きに立つ、全身真っ黒の牛
黒毛和種(雌)。和牛の9割以上を占める、霜降りの主役です写真:JIRCAS Library / Wikimedia Commons(CC BY 2.0、トリミング・縮小)
横向きに立つ、明るい茶色の牛
褐毛和種(雌)。熊本や高知で育つ「あか牛」です写真:JIRCAS Library / Wikimedia Commons(CC BY 2.0、トリミング・縮小)
草地に立つ、赤みがかった濃い茶色の牛
日本短角種(雌)。夏は山で放牧される、東北生まれの丈夫な牛写真:JIRCAS Library / Wikimedia Commons(CC BY 2.0、トリミング・縮小)

圧倒的な多数派は黒毛和種で、和牛の9割以上を占めます。きめ細かな霜降りになりやすいのが最大の特徴です。褐毛和種は赤身と脂のバランスがよい「あか牛」、日本短角種は夏は山で放牧する「夏山冬里」で育つ赤身の牛。そして無角和種は、その名のとおり角のない牛で、いまや山口県に約200頭しかいない希少種です。

三

田畑の相棒から、ごちそうへ

「食べる牛」ではなかった

江戸時代まで、和牛は食べるための家畜ではなく、田畑を耕し、荷物を運ぶ役牛でした。それでも各地には評判の牛がいて、鎌倉時代後期の『国牛十図』(1310年の記述がある)には諸国の名牛が描かれています。但馬の牛は「骨が細く、肉がしまり、皮が薄く……」と紹介されていて、のちの和牛のルーツを思わせます。

肉食がはばかられた時代にも、牛肉を口にする抜け道はありました。1687年、彦根藩の花木伝右衛門は牛肉の味噌漬け「反本丸(へんぽんがん)」を考案し、養生のための薬として売り出して、将軍家にも献上したといいます。近江牛の長い歴史の始まりです。

文明開化と、改良の100年

1872年、明治天皇が肉食を解禁すると、牛は「食べるもの」になっていきます。山形・米沢では、1875年、英語教師として招かれていた英国人チャールズ・ヘンリー・ダラスが任期を終えて帰る際、地元の牛を横浜の居留地へ連れて帰りました。その肉の評判が「米沢牛」の名を全国に広めるきっかけになりました。

明治時代には、体を大きくするために外国の牛との交配が進められました。そこから日本の牛としての特徴をそろえる改良が続き、1944年に黒毛和種・褐毛和種・無角和種の3品種が固定され、1957年には日本短角種の登録が統一されて、いまの4品種がそろいます。

肉の牛へ、そして世界へ

戦後の1950年代になると、和牛は役牛から肉専用の牛へと役割を変えていきます。1991年に牛肉の輸入が自由化されると、安い輸入牛肉に対して、和牛は「質」で勝負する方向へ進みます。2001年のBSE、2010年の口蹄疫では輸出が止まるなどの試練もありましたが、2007年には海外へ出す和牛に付ける統一マークがつくられ、世界へ売り込む動きが本格化します。2025年には牛肉の輸出額が過去最高を記録しました。

一方、海外にも「WAGYU」がいます。1976年には米国へ種牛が生きたまま輸出され、1990年代には商用の輸出も始まって、98年までに247頭が米国へ渡りました。いまでは米国や豪州、欧州でも「WAGYU」が育てられています。日本の和牛の統一マークは、こうした海外の「WAGYU」と区別して、本家の和牛をアピールするためのものでもあります。

年表で見る和牛の歩み

1310 『国牛十図』に諸国の名牛。但馬の牛も 1687 彦根藩が牛肉の味噌漬けを将軍家へ献上 1872 明治天皇が肉食を解禁 1875 ダラスが米沢の牛を横浜へ。米沢牛の始まり 明治 外国の牛と交配して改良が進む 1939 但馬で「田尻号」が生まれる 1944 黒毛・褐毛・無角の3品種が固定される 1957 日本短角種の登録が統一される 1991 牛肉の輸入自由化。和牛は「質」で勝負へ 2007 「和牛」表示の基準と統一マーク 2012 繁殖雌牛の99.9%が田尻号の子孫と判明 2025 格付けA5が全体の36.6%に
四

伝説の種牛「田尻号」

和牛の歴史で、いちばんのスターは1頭の牛かもしれません。田尻号は1939年、兵庫県北部・香美町の小代(おじろ)地区の農家で生まれた雄牛です。標高の高い山あいの小代には、外国の牛や他の品種との交配をまぬがれた純粋な但馬牛が残っていました。

田尻号の子どもは、霜降りの良さが安定して受け継がれることで高く評価され、15年の生涯で1463頭の子牛を残しました。その子や孫の優秀な種牛が全国に広がった結果、2012年に全国和牛登録協会が調べたところ、なんと全国の黒毛和種の繁殖雌牛の99.9%が田尻号の子孫だったのです。

1頭の牛から、日本中の黒毛和種へ

田尻号 1939年・兵庫県香美町 生涯で1463頭の子 子や孫が全国の種牛に 繁殖雌牛の99.9%が子孫 2012年 全国和牛登録協会の調査 ※ 点の数はイメージです。右のマスは1000頭あたり999頭を表します
山あいの緑の放牧場で、大きな木の下に黒い牛が数頭いる
兵庫県北部、但馬牧場公園の放牧場。但馬は和牛のルーツといわれる土地です写真:藤谷良秀 / Wikimedia Commons(CC BY-SA 4.0、トリミング・縮小)
五

霜降りの秘密 ── A5とBMS、とろける脂

「A5」は何の5?

和牛といえば「A5ランク」。これは日本食肉格付協会による枝肉の格付けで、アルファベットと数字の組み合わせです。

  • A〜C(歩留等級):1頭からとれる肉の量の多さ。Aがいちばん多い。
  • 5〜1(肉質等級):「霜降りの度合い」「肉の色つや」「肉の締まりときめ」「脂肪の色つやと質」の4項目を5段階で評価し、いちばん低い項目の評価がその肉の等級になります。

霜降りの度合いは、BMS(脂肪交雑基準)というNo.1〜12の物差しで測ります。No.8以上なら霜降りは最高の等級5。つまりA5は「たくさん肉がとれて、霜降りも色つやも締まりも脂の質も、すべてが最高評価」という意味です。

格付けの15区分と、霜降りの物差し

歩留等級 A B C 5 A5 B5 C5 4 A4 B4 C4 3 A3 B3 C3 2 A2 B2 C2 1 A1 B1 C1 肉質等級 A〜C:とれる肉の量 5〜1:4項目のいちばん低い評価 霜降りの物差し BMS 1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 BMS と霜降りの等級 BMS No.1 → 等級1 BMS No.2 → 等級2 BMS No.3〜4 → 等級3 BMS No.5〜7 → 等級4 BMS No.8〜12 → 等級5 ※ 2025年はA5が格付けされた牛全体の36.6%(和牛の去勢牛では71.7%)

ちなみに、改良が進んだいま、A5はもう「ごく一部の特別な肉」ではありません。2025年の格付けでは、A5が格付けされた牛全体の36.6%を占め、和牛の去勢牛に限ると71.7%がA5でした。そのため最近は、霜降りの量だけでなく、赤身のうまみや脂の質にも注目が集まっています。

脂がとろける理由

和牛の脂が口の中でとろけるのは、脂の中身に秘密があります。黒毛和種の脂は、ホルスタインや外国産の牛肉に比べて、オレイン酸などの一価不飽和脂肪酸が多いのが特徴。オレイン酸が溶ける温度は13.4℃と低く、パルミチン酸(62.9℃)やステアリン酸(69.6℃)などの飽和脂肪酸よりずっと溶けやすいので、体温で温められると、すっと溶けていくのです。

脂肪酸が溶ける温度

口の中(体温) 0℃ 10℃ 20℃ 30℃ 40℃ 50℃ 60℃ 70℃ オレイン酸 13.4℃ パルミチン酸 62.9℃ ステアリン酸 69.6℃ 和牛の脂は、オレイン酸などの一価不飽和脂肪酸が多い → 低い温度で溶けるので、口に入れるととろける

そしてもうひとつ、和牛ならではの甘い香り。これは「和牛香」と呼ばれ、ココナッツのような甘い香りのもとになる「ラクトン類」という成分が関わっていると考えられています。焼いたり煮たりしたときに立ちのぼる、あのふわっと甘い香りです。

六

産地とブランドをめぐる

日本には、大小あわせて約300の和牛ブランドがあるといわれます。「三大和牛」は松阪牛・神戸ビーフ・近江牛を挙げることが多いものの、近江牛の代わりに米沢牛を入れる説もあり、どれも負けず劣らずの名牛です。地図の番号を押すと、それぞれの説明へ移動します。

1. 岩手など東北北部 ── 山を歩く日本短角種

岩手・青森・秋田と北海道を中心に育つ日本短角種は、東北北部の在来牛「南部牛」に、ショートホーン種をかけ合わせた品種です。夏は山で放牧し、冬は里の牛舎で過ごす「夏山冬里」で、放牧中に種牛が自然に交配する「まき牛」という昔ながらの方法も受け継がれています。赤身が多く、かむほどにうまみが広がる肉です。

2. 米沢牛(山形) ── 英国人が見いだした味

山形県置賜地域で育つ黒毛和種の未経産の雌牛で、生後33か月以上、肉質3等級以上などの基準があります。1875年のダラスのエピソードに始まり、1899年に奥羽本線が開通すると、米沢駅では米沢牛の駅弁も売られるようになりました。

鉄鍋の中で、牛肉と豆腐、ねぎ、しらたきが煮えている
米沢牛のすき焼き(山形・小野川温泉)。甘辛い割下に、脂のうまみが溶け出します写真:Jpatokal / Wikimedia Commons(CC BY-SA 4.0、トリミング・縮小)

3. 松阪牛(三重) ── 1頭ずつ管理される名牛

黒毛和種の未経産の雌牛で、「松阪牛個体識別管理システム」に登録され、導入から出荷まで1頭ごとに管理されています。なかでも、兵庫県生まれの子牛を松阪牛の生産区域で900日以上肥育した「特産松阪牛」は、松阪牛のわずか3〜4%しかいない「松阪牛の中の松阪牛」。脂が低い温度で溶け、上品な甘い香りがするといわれます。

瓦屋根と赤い外壁の、古い木造2階建ての料理店
松阪の「牛銀本店」。明治35年創業の、すき焼きの老舗です写真:Miyuki Meinaka / Wikimedia Commons(CC BY-SA 4.0、トリミング・縮小)

4. 近江牛(滋賀) ── 江戸時代から続く歴史

1687年の「反本丸」に始まる長い歴史を持つ近江牛。明治時代には神戸港から東京へ運ばれて「神戸牛」として売られていたこともあり、1889年に東海道線が開通して近江八幡駅から鉄道で出荷されるようになって、「近江牛」の名が広まりました。格付けがA4・B4以上などの条件を満たすと「認証近江牛」になります。

5. 但馬牛と神戸ビーフ(兵庫) ── 和牛のルーツ

兵庫県北部の但馬地方は、和牛のルーツといわれる土地です。但馬牛は、県内の歴代の種雄牛だけを使って交配するという決まりを守り、純粋な血統を受け継いできました。その但馬牛のうち、肉質等級4以上、BMS No.6以上などの厳しい基準を満たしたものだけが神戸ビーフを名乗れます。とくに米国の人々に人気の高い、世界でいちばん有名な和牛ブランドかもしれません。

木の台の上に、霜降りの入った大きな牛肉の塊が並んでいる
神戸の店に並ぶ神戸ビーフ。但馬牛のなかでも、とくに厳しい基準を満たしたものだけがこう名乗れます写真:Orlando G. Calvo / Wikimedia Commons(CC BY-SA 3.0、トリミング・縮小)
網の上で焼かれる、格子状の焼き目がついた厚切りの霜降り肉
城崎温泉の但馬牛ステーキ。表面を香ばしく、中はやわらかく写真:Nishimuraya Kinosaki Onsen / Wikimedia Commons(CC BY 2.0、トリミング・縮小)

6. 無角和種(山口) ── 約200頭の希少種

1920年、山口県阿武郡で、在来の和牛にアバディーン・アンガス種をかけ合わせた種雄牛「小雀号」から始まった品種です。1944年に正式に「無角和種」となりました。角がなく、ずんぐりした体つきで、霜降りになりにくい赤身中心の肉。いまでは約200頭、和牛全体の約0.01%しかいない、とても希少な牛です。

7. 高知 ── 褐毛和種の産地

褐毛和種のもうひとつの主産地が高知県です。褐毛和種は赤身と脂のバランスがよく、濃厚なうまみが特徴とされます。

8. 熊本 ── 「あか牛」のふるさと

熊本県は褐毛和種の主産地。熊本系の褐毛和種は、1952年から独自の登録協会で管理され、いまは「日本あか牛登録協会」になっています。地理的表示(GI)にも「くまもとあか牛」が登録されています。

9. 宮崎牛 ── 「和牛のオリンピック」の常連

5年に1度開かれる「全国和牛能力共進会」は、各地の和牛が改良の成果を競う、いわば和牛のオリンピック。2022年の鹿児島大会では、41道府県から約440頭が出品され、最高位の名誉賞(内閣総理大臣賞)を宮崎県と鹿児島県が受けました。2010年の口蹄疫という大きな試練を乗り越えた産地でもあります。

トレーに、霜降りの入った焼肉用の牛肉が並んでいる
宮崎牛の焼肉用リブ。2022年の「和牛のオリンピック」で最高位の賞を受けた産地です写真:Miyuki Meinaka / Wikimedia Commons(CC BY-SA 4.0、トリミング・縮小)

10. 鹿児島黒牛 ── 頭数日本一

鹿児島県は、肉用牛の飼育頭数が全国1位。2025年2月時点で約35万頭、全国の約19%を占めます。2022年の全国和牛能力共進会の開催地となり、多くの部門で上位に入りました。

七

和牛をおいしく味わう

和牛の楽しみ方は、料理によってがらりと変わります。

  • すき焼き:甘辛い割下に、霜降りの脂のうまみが溶け出します。和牛の香りをいちばん感じやすい料理のひとつ。
  • しゃぶしゃぶ:薄切りをさっと湯にくぐらせると、余分な脂が落ちて、霜降りでも軽やかに。
  • ステーキ:表面を香ばしく焼いて、中はやわらかく。霜降りの多い肉は、小さめに切っても満足感があります。
  • 焼肉:部位ごとの違いを食べ比べるなら焼肉がいちばん。部位のことは「焼肉のはなし」でも紹介しています。
テーブルの中央に鍋があり、まわりに霜降りの薄切り肉の皿が並ぶ
京都の店のしゃぶしゃぶ。薄切りの肉をさっと湯にくぐらせると、余分な脂が落ちてさっぱり写真:jimg944 / Wikimedia Commons(CC BY 2.0、トリミング・縮小)

霜降りたっぷりのA5を少しだけ、赤身の多いあか牛や短角牛をしっかり、と、その日の気分で選べるのも和牛の面白さです。

NOTE

牛肉を家庭で焼くときは、ひき肉や成形肉、内臓は中心までしっかり加熱してください。牛レバーは生で食べることが禁止されています。生肉用のトングと食べる箸は分けて使いましょう。

結 — 一枚まとめ

  1. 和牛は品種の名前。4品種とその交雑種で、日本で生まれ育った牛だけ。国産牛は産地の表示。
  2. 和牛はもともと田畑を耕す役牛。明治の改良を経て、1944年と1957年に4品種がそろった。
  3. 1939年生まれの田尻号の子孫が、黒毛和種の繁殖雌牛の99.9%。
  4. A5は「たくさんとれて、肉質も最高」。とろける口どけはオレイン酸の多い脂のおかげ。
  5. 松阪・神戸・近江・米沢・宮崎・鹿児島から、あか牛・短角牛・無角和種まで、産地ごとの個性を味わおう。

参考

数値は記事執筆時点の公表資料によります。写真は Wikimedia Commons で再利用が認められているもので、撮影者とライセンスは各写真の下に記しました。図とイラスト、地図は筆者が作成しました(地図は国土地理院「地球地図日本」をもとにしたデータを使用)。

グルメノート No.6 — 和牛のはなし / 2026.10

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